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第三話 演目 シンフォルトと電子タバコ

 縁といずみは昔話に花を咲かせている、色鳥はその間も『石投げ』で遊んでいた。

 もはや説明するまでもない、隠れている敵に対して未だに石を投げている。

 縁達は気にも留めずに話をしているのだ、所詮敵はその程度という事だ。


「そんな事もありましたねー」

「博識さんとは本当にほぼ言い合いしかしてないんだな」

「ええ、ですが縁さんは力でどうこうはしてこなかったですよ?」

「そりゃそうだ、力は家族の為に使えと両親の教えだ」

「なるほど」

「だが、友人達の為に使うのもいい」

「あら?」

「情けは人の為ならずだよ」

「ふむ、覚えておきましょう、あ」


 いずみは何かに気付いた様に縁を見た。


「陣英さん達はいいとして、シンフォルトさんが心配ですね」

「あいつは俺達の中では一番強いぞ? 心配か?」

「おやおや? 今の縁さんよりもですか?」

「いや、あいつは道徳のある攻撃じゃないと死なんだろ? 俺でも無理だ」

「あらら、知りませんでした」

「噓つくな、そもそも道徳ある攻撃ってなんだろうな」

「縁さんがそれを言いますか? 運が良かったで済ませる神様が」

「……いや、まだ理解出来るだろう?」

「道徳とくらべればですね」


 縁はため息をしながら立ち上がった、少々めんどくさそうに。


「どうせまた道徳心を説いているんだろう、むかえに行くか」

「お任せしていいんですか?」

「ああ、博識さんに任せたら道徳ガールズトークで遅くなりそうだ」

「面白そうな題材ですね」

「そうか? 答えが無いぞ?」

「ですから話し合いの価値があるのでしょう?」

「なるほどな、まあとりあえず行って来るよ」


 縁がシンフォルトを探して森に入った、もちろん何処に居るかは知っている。

 優雅に一休みをしているシンフォルトを難なく見つけた。


「あらあら縁さん、どうしました?」

「ああ、博識さんがお茶を用意してくれたんだよ」

「あらあらまあまあ、もうお茶時ですか?」

「しかしまあ……何をしたんだよ」

「え? 私は道徳を教えて差し上げただけです!」


 おそらくいずみが説明していた、グリオードと争っている敵国ボウリューンの兵士なのだろう。

 ほとんどが意気消沈をしていて上の空、正気がありそうな奴は震えているか泣いていた。

 ぶつぶつと道徳という単語を口にしていた、縁はそれを見てため息をする。


「トラウマじゃないか、可哀想に」

「何を言います! 人の頭をぶち抜くなんて道徳に反しています!」

「いや……うんまあ……戦争ってそそういうもんだろ?」

「え!? これって戦争なんですか?」

「グリオードの国のゴタゴタに巻き込まれたようだ」

「まあまあ! 確固たる信念を持って殺し合いをしていた人達に! 私はなんてことを! 神よ許してください!」


 呆れる縁をよそにシンフォルトは祈りを捧げ始めた。

 その姿は絵に描いた様なシスター、お手本の様な清楚。

 だがその実態は道徳を布教するちょっと変ったシスター。


「博識さんが言うにはコイツらは武闘派国家、力で他国を侵略しているようだ」

「それはそれでその人達の信念では? どうしましょう、一方的に道徳をといてしまいました」

「いいんじゃねぇか?」

「そうですか?」

「俺からしたら友の頭を吹っ飛ばす国なんか亡べばいいと思うが?」

「うーむ……それを言われれば確かにそうなのですが……相手の気持ちを考えるのも道徳です」

「シンフォルトさんの道徳の基準がわからん」

「それは簡単です、一般的に道を外れた方達ですね」

「目の前の人達は違うと」

「はい、国の方針に個人がどうこう言っても仕方ないじゃありませんか」

「なんか矛盾しているような……あれ? お前昔俺と一緒に国滅ぼしたよな?」

「それは絆様をお守りをする戦い、言わば聖戦ですよ? 神を殺そうとする者に道徳があるとは思えません、しかも理由が『不幸の神だから不幸をばら撒くだろう』と、お鼻で笑いたくなる内容でしたし」

「そいや昔縁様って呼んでたな」


 縁はふと思い出して、少し驚いた顔をして聞いた。

 出会った頃は神様扱いいされているのを思い出した。

 別の神の使いとはいえ、シンフォルトが丁寧に接するのは当たり前だろう。


「ええ、縁さんは神様ですし」

「何で様じゃなくなったんだ?」

「縁さんが言ったんですよ? 俺に様はいらない、信者でもない奴に付けられたくないと」

「ああ……言ってたなぁ……でさ」

「はい?」

「これの後片付けどうするの?」

「知りませんよ、道徳の無い方々に道徳ある行動はしません」

「さっき戦争だったらどうのこうの言ってなかったか?」

「矛盾しますがそれはそれですよ、申し訳ないとは思いますけど……私も手を出されて黙ってはられませんし」

「まあそりゃそうだ」

「ほっといても大丈夫です、道徳に目覚めたこの人達は私達を襲ってきません」

「何で?」

「友人達とキャンプに来ただけなのに襲い掛かって来る外道なんで」


 普通に考えたらシンフォルトの言い分は正しい。

 相手からしてみれば敵国の王様単身でキャンプ場居る。

 友人が居るようだが我々の相手ではない、そう思ったのだろう。

 だが外道に出来る事は道徳心を与える事だとシンフォルトは思っていた。


「そいや……シンフォルトさんは武闘派だったな、最近は口調が優しくなったけども」

「……んじゃ、日々のストレス発散に縁なら知ってるから隠す必要もねーか」


 清楚系な雰囲気からヤンキーぽい顔立ちへと変換したシンフォルト。

 立ち方もいかつい立ち方をしている、縁はそれを見ても何も言わない。

 そしてシンフォルトは袖から電子タバコを出した。


「え? タバコ?」

「ああ、電子道徳のタバコだよ」

「なんだそりゃ」

「ん? 吸うと道徳心が芽生える」

「怖いなぁ」

「神のアンタが言うのか」

「え? もしかして無理してシスターやってるとか?」

「いや? ただ私の口調でシスターは無理あるだろ? 主も見てない所でなら許してくれてるよ」


 シンフォルトは電子タバコを吸って、薄っすらとした煙を口から吐いた。

 縁はその姿に驚くことも無く普通にしている、素のシンフォルトを知っているからだ。


「縁、ちょっとダベるの付き合え」

「いいよ、何か飲む?」

「缶コーヒー、砂糖無しのミルク多めのカフェラテ」

「おっしゃ」


 縁は鞄からミルク色の缶コーヒーをシンフォルトに渡した。

 シンフォルトは缶コーヒーを開けて中身を飲む、そして電子タバコを吸うこれを繰り返す。

 縁も同じ物を取り出して飲み始めた。


「お前さんとこうして話すのは……ああ、名前忘れたが絆を殺そうと躍起やっきになってた国潰しただろ」

「ああ……名前は忘れたが幸せの神を信仰していた国だな、まったくいい迷惑だった」

「ふっ……私は道徳の視点から、アンタは身の丈の幸せ……いや、妹の為だよな」

「当たり前だ」

「昔は悪かったな、シスコンだのなんだのおちょくって」

「いやいいよ、本当に気にしてないから」

「そうなのか?」

「ああ、お前は妹の事を殺そうとしなかっただろ?」

「当たり前だ、本物の神様を殺そうとするなんて創作物の読み過ぎだね」

「まあ邪神とか悪い神も居るが」

「アンタの妹は違うでしょ」

「まあな」


 シンフォルトは缶コーヒーを一気に飲み干した。


「縁、今度は甘いやつくれ」

「どれくらい甘いのだ?」

「んー……一般的に甘いのでいいや、冒険はしない」

「ほいよ」


 今度は青色の缶コーヒーをシンフォルトに渡した。


「あ、そいやお前結婚式いつにすんだよ」

「2年以内にはしたいかな、それまでにお互いの生活が合うか、子供はどうするか……決める事だらけだよ」

「お前からそんな言葉がでるとはねぇ」

「縁の神が妻となる人を最優先にしないで、何が縁結びの神様って話だ」

「……本当にお前変わったな」

「いや、お前さんもだろ」

「そうか?」

「神に隠し事は出来ないぞ? 子供達がいい影響を与えたか?」

「はっ、お前も子供とかかわるようになったらわかる、自分がどれだけ薄汚ねぇかな」

「そりゃそうだ、そこら辺は結びさんとちゃんと話し合うよ」

「本当に変わったねぇ……」


 素のシンフォルトは笑った後にコーヒーを一気飲みした。

 電子タバコを袖にしまい、何時も通りのニコニコした顔に戻る。


「ではそろそろ戻りましょうか縁さん」

「休憩はいいのか?」

「はい、皆様も心配しますし」

「あ、空き缶くれ、ゴミ袋にしまうから」

「ありがとうございます」


 2人の休憩は終りキャンプ場へと戻っていった。

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