縁とシンフォルトはキャンプ場へと帰って来た。
色鳥達は茶菓子を食べながら飲み物を飲んでいる。
グリオードは居るが陣英は居なかった。
「おうお帰り、そっちはどうだった縁?」
「なんて事は無い色鳥、シンフォルトが全て終わらせてた」
「そりゃそうか手を出すなんてアホがする事だ」
「あれ? 陣英は? グリオード?」
「アイツなら訓練と称してスニーキングミッションをしているよ」
「は?」
「武器も防具も無い状態から制圧するとさ、その心意気には称賛するが……」
「グリオードは大丈夫だったのか?」
「山の幸を私に押し付けたよ」
グリオードはビニール袋に入ったキノコ等の収集物を縁に見せた。
「皆好き勝手してるなぁ……」
「では私も好き勝手しようか」
「え?」
「親友を巻き込まれたら黙ってられん」
「どうしたグリオード?」
「縁さんご説明しましょう! 言うならば国民への攻撃は国としての対処が必要です、ですが今回は私達への攻撃……つまりは個人的な恨みで動けるんですよ」
「いや……王様としてどうなんだ?」
「私とて人間だぞ? 怒りに任せる時もある」
グリオードは当たり前だと言わんばかりの顔をしている。
「待ってくださいグリオードさん?
「博識、
「氷系の技に関してはピカイチな方ですね? 私はあまりお話した事はありませんが」
「悪魔は契約を守る、私も麗華と契約をした」
「あらあら? 内容を話してもいいのですか?」
「隠す事でもない、契約の一つに『友人が何かされたら王様としては動かない』とね」
「なるほどです」
「と言う訳で縁、手伝ってくれ」
「え?」
縁は豆鉄砲をくらったような顔をした。
「手伝うって何をさ」
「ボウリューンへ殴り込みに行く」
「はぁ? いやいや、何で俺なんだよ、てか国家間での戦争だろうに」
「そうだ、国に対してならくにで返した、だが今はプライベートだ、だったら私もプライベートで返す」
「……何で俺なんだ?」
「この中で一番まともだと思うからだ」
「そう……か?」
「ふふん、では私が説明いたしましょう! 色鳥さんは間違いなく普段遊べてない分、間違いなく敵で遊びます、シンフォルトさんは説法しそうですし、私は解説と説明をした結果、相手を煽り散らかすでしょう」
「付け加えるが……結びさんが過激だから俺が落ち着いて見えるだけでは?」
「まあまあたまにはいいじゃないですか? 暴れても? 私達はティータイムをしつつディナー下ごしらえをしていますから」
「……」
いずみの言葉を合図に各々何かしらの作業をしだした。
「無理にとは言わないよ縁」
「わかったわかった、久しぶりお前の『能力』を見たくなった」
「ああ、存分に使おうじゃないか」
そんなこんなで縁は、グリオードの案内でボウリューンへとやって来た。
転移魔法で難無く目の前へとやってきたのだが、やはり武力国家なだけあって堅牢な外壁の作りである。
「ふむ……武力国家って感じだなぁ、グリオードどうするのさ」
「正面突破だ」
「脳筋だなぁ」
「シンプルと言ってくれ」
グリオードを先頭にしてボウリューンの検問へと歩いていく。
「む? 貴様……グリオード・グリエタチ・グリンダスルトか!」
「ここが何処かわかっているのか!」
「わかっているからここに居る」
警備兵は当たり前の反応で銃器をグリオードへと向けた。
「死ねぇ!」
「くらぇ!」
だが彼らの銃器は暴発した、手から血を流していて見るからに重症だ。
そしてあまりの痛さからか、のたうち回っている。
「ぐぁ!」
「いってぇぇぇええぇぇぇぇ!」
「称賛に値しないな、武器の手入れを怠るとは……行くぞ縁」
「相変わらず怖い加護だな、称賛や賞賛に値しない者を拒否する力、博識さんが喜んで解説してくれそうだ」
グリオードの称賛と賞賛の加護、この加護の最大値の使い方。
それは相手の行為が賞賛と称賛に値するかの判別だ。
つまり先程の警備兵は『グリオードの命を狙ったから称賛されない行為』という事。
称賛と賞賛の加護は言わば、褒められない行動を拒否出来る。
これも力の一部でしかない、神の加護は完全には説明できないからだ。
「私も一度この加護で痛い目にあっているから、使い方は間違いたくないが……間違う理由をこの国の者達は作った」
「一般市民はどうするんだ?」
「ここの国は子供の時から戦争を叩きこまれている」
「おいおいマジかよ、このご時世に」
「だが子供は殺さん、子供だからだ」
「つまり?」
「成人してなお私に武器を突き付けるなら死ぬだけだ、残念だが」
「……大丈夫か? 王様なのに」
「自国や友好国の民は気にする」
グリオード達は真っ直ぐ城へと歩く、その道中子供達と遭遇した。
「あ! アイツ凶悪犯のグリオードってやつじゃないか!?」
「本当だ!」
「倒せ! 倒せ!」
子供達は素早くグリオード達を囲み行く手をふさいだ。
「可哀そうだ、子供を戦争に使うとはな」
「それには同意だ、どうするんだ?」
「手を出さない」
「だな、子供は純粋だからこそ善悪が無いしな」
「親の役目だがな」
「で、どうするんだグリオード」
「ん? このままこの国を崩壊させる」
「いいのかよ、そんな脳筋で」
「いいんだ、相手が武力ならこちらも武力、相手が経済ならこちらも経済だ」
「なるほどね」
「称賛に値するだろ?」
「うーんまあうーん」
2人は子供達の事など気にも留めずに話をしていた。
「お前も仲間だな! 死ね!」
縁は子供の殺意に反応して神様モードになった。
白い着物をベースとし、黒色の模様がある姿。
この間
襲い掛かろうとした子供は突然戦意を無くした。
絶対に勝てない化け物を見ている様な目で縁を見ている。
「つい殺意に反応してしまった」
「縁、見ない間に神様モードが何か凄い事になってるな?」
「ああ、前までは結びさんの愛だけを表に出していたが……今は善悪全ての信仰を放っている」
「うーむなるほどね、悪い信仰心を良き縁で縛って正気を保っているのか、これは正に縁の積み上げてきた縁」
「ああ」
「それより早く終わらせようぜ」
「ふむ……それもそうだな」
道中説明するまでもない、何物も縁達は止められなかった。
そしてボウリューンの王様の所へとやってきたのだが……明らかに不自然だった。
周りに誰も居ないのだ、グリオードはそれを見てため息をしたのだった。
「私もここで終りか……私は止めたのだが配下が勝手に話を進めた、さ、私を殺して終わらせろ」
「なるほど、つまり戦争はまだまだ続くのか、貴方を殺して終わるほど戦争は簡単じゃありませんよ、わかっているでしょう」
「……ん?」
縁のカミホンが鳴って画面を見ると、結びからの電話だった。
「お? 結びさん?」
『はろぅ、私の愛しい旦那様』
「どうした?」
『グリオードさんの所で女子会してたら、何か攻め込まれてさ』
「ふむ」
『麗華さんが物凄いニコニコして出ていったんだけど……グリオードさん居る?』
「ああ隣に居る、ちなみにその仕掛けた国のお偉いさんの目の前にも居る」
『あらら? 縁君、私も暴れたいんだけどいい?』
「やめなさい、麗華さんに任せておきなさい、お客様なんだから」
『ちぇーわかったよ、んじゃね~』
縁は相変わらずな彼女に軽くため息をした。
グリオードはわかっている顔をして縁に聞く。
「私の国に攻めてきたのだろう?」
「そうらしい」
「ふむ……今日は帰ろう」
「なっ!? 私を殺さないだと!?」
「影武者を殺して何になる?」
影武者は悔しそうな顔をしていた、影武者らしく殺される事を願っていたのかもしれない。
縁達は元来た道を戻ってボウリューンの街から出た。
「やはり単独で決着は良くない」
「えぇ……何しに来たんだよ」
「下見だ、下っ端がどれくらいの戦力かなと」
「なんだか無茶苦茶だ」
「しかしこの規模の偽物を作れるとはな、本国は何処にあるんだろうか」
「なるほど、情報が正しかったか見極めたかったと」
「ああ、だがその本国も近々大打撃だろうな」
「そうなの? 」
「麗華は悪魔だからな、俺も知らない手で情報は掴んでいるだろう」
「優秀な参謀だな」
「賞賛に値するだろう? 俺を影で支えてきた功労者だ、ジンもな」
「俺必要無かったじゃん」
縁はため息をしながら空を見た、何だかんだと夕方になっている。
「縁、親友達とこの先二人っきりはそうそう無いぞ?」
「まあ……そうかもな」
「付き合ってくれてありがとう」
「付き合いなら殺伐してない事で誘ってくれて」
「王様のお忍びって難しいんだ」
「苦労しているな」
「その点縁は羨ましいよ」
「そう?」
縁とグリオードはせっかくだからお喋りをして帰る事にした。