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第85話 魔女(2)

第85話 魔女(2)





 仮面の魔法少女、デルタとの対峙を経て。他のメンバーより少々遅れる形で、クロバラはイギリス本土へと足を踏み入れる。


 やって来たのは、文明の明かりが輝く大都会。

 他のメンバーとの合流がとりあえずの目的ではあるものの。やはり、この国の予想外の姿に驚きを隠せないでいた。




(デルタ曰く、週末との話だったが。まさかこの時期に、これほど平和な日常が存在するとは)




 外の世界とは大違い。魔獣の脅威、滅ぼされた都市、ただ生きることに必死な人々。それが、この新たなる戦争の当たり前な風景だと、クロバラは思っていた。

 しかし、このイギリス本土は違った。まるで、戦争など関係ないとばかりに、輝かしいほどの文明を謳歌していた。




(しまったな。この中であいつらを見つけるのは、至難の業だぞ)




 まるで、お祭りの最中かのように、大通りは人に溢れている。しかも、信じられないことに、目に見えるほどんどの人物が、魔法少女、あるいはそれに準ずる者たちであった。

 この中から、特定の魔力を探し出すのはクロバラでも難しい。


 途方に暮れたように、人の流れを見つめるしかない。




(……それにしても、異常だな。男はどこに行った?)




 しばらく眺めたうえで、クロバラは一つの疑問に辿り着く。

 確かに、派手な賑わいを見せている都会風景だが、そこに存在しているのはほとんどが魔法少女。もしくは、それを引退した、元魔法少女と思われる女性の姿のみ。

 男の姿を、全くと言っていいほど目にしない。


 いくら、イギリスが魔法少女中心の国とは言え。

 人類の都市として、これは明らかな異常であった。




 ここは、魔法少女の楽園。

 ならば、それ以外の存在にとってはどうなのか。


 この国の歪さを、ひしひしと感じ取る。




 群衆に紛れた仲間たち。

 それをどうやって探そうか、途方に暮れるクロバラであったが。





「――失礼、お嬢さん。よろしければ、お茶でもいかがですか?」





 思わず、安らぎを感じるような。

 懐かしい声に、振り向いた。















「ちょっと、そこのレディたち。アタシのアクセサリー、見ていかない?」




 そんな、怪しげな声。

 かなりパンクなファッションに身を包んだ女性に声をかけられて、アンラベルのメンバーたちは動揺していた。


 ただでさえ、ここは勝手の分からない異国の地。なるべく、目立つ行為は避けなくてはならない。

 また、任務遂行のため、クロバラと合流するためにも、ワルプルギスと呼ばれる存在に接触する必要もある。


 ゆえに、怪しいお姉さんのお誘いには乗りたくないのだが。




「アンタたち、ここらへんの魔法少女じゃないでしょ? ほら、纏ってる空気が違うもの」


「うげっ」




 なぜ、そんなことがバレたのか。

 思わず、ティファニーが声が漏れる。




「面倒事は避けたいんじゃない? だったらほら、こっちに来んしゃい」




 怪しい誘いの手。それでも、無視をしたら後が怖い。

 メンバーたちは互いに顔を見合わせると、渋々といった様子で怪しいお姉さんの元へと近づいた。





「あはは、いらっしゃーい。ようこそ、魔女印のアクセサリーショップへ。ほら、好きに見てってよ」




 どうやら彼女は、アクセサリーの露天販売を行っているらしく。

 地面に敷かれたマットには、きらびやかなアクセサリーが多数並んでいた。


 お姉さんのパンクな見た目に反して、アクセサリーは以外にもまとも。というより、むしろ少女心をくすぐる綺麗なもので。

 メイリンやルーシィは、早速そのアクセサリーに目を奪われていた。


 ティファニーやレベッカは、あまりこういう物に興味がないのか、少々冷めた様子で。

 ゼノビアも、また別の観点から距離を置いていた。




「……ここにある商品、全部魔法が込められてる。ただの飾りじゃない」




 なにせ、怪しいお姉さんが売っている商品である。

 ただのアクセサリーに見えて、それは確かな力を持つ代物であった。


 ゼノビアの意見を受けて、お姉さんは少々驚いた様子。




「へぇ。こいつに込められた魔力に気づくなんて。アンタ、いい目をしてるわね」


「別に、大した事ない。注意を怠るなって、そう訓練を受けてるから」




 ゼノビアだけではない。他のメンバーも、およそ一ヶ月近い間、クロバラによる基礎訓練を受けてきた。

 だからこそ、どんな状況でも冷静さは失わない。




「そういうこった。あとついでに、アタシらは一文無し。悪いが、ここの商品は買えねぇよ」


「……」




 ゼノビアの頭に乗っかりながら、ティファニーがそう言い放つ。

 体格差を感じてか、ゼノビアは不服そうであった。




「テメェらも、目をキラキラさせてんじゃねぇ! さっさとあのチビと合流して、ワルプルギスとやらを探すぞ」


「そうデスよ。リーダーぶってるティファニーさんの言う通りデス!」


「うっせー、バカ!」




 忘れてはいけない。自分たちは、任務を果たすためにこの地にやってきたのだから。

 怪しい相手、奇妙な現象に出くわしても、目的を見失ってはいけない。


 そうやって、一致団結するアンラベルの少女たちを見て。

 露天の怪しいお姉さんは、静かに微笑んだ。




「いいわね、そういうの。なんだか昔を思い出す」




 そう言いながら、お姉さんはいくつかのアクセサリを見繕うと、それを袋の中へと詰めていき。

 少女たちへと差し出した。




「……聞いてなかったのか? アタシら、無一文だぜ?」


「もちろん聞いてたよ。でもアタシは、そもそもこれを販売するとは、一言も言ってないでしょ?」




 確かに彼女は、アクセサリーを見ていって、と言っただけである。

 買っていけ、とは一言も言っていない。




「アタシは、気に入った相手に、気まぐれに物を渡すのが好きな、ただの魔女。アンタたちを応援するってことで、この希望のチャームをプレゼントしてあげる」




 かつて、同じ魔法少女であった、1人の人間として。

 ただ純粋に、受け取ってほしい。


 そんな彼女の好意を、流石に突っぱねるのは気が引けたのか。




「ちっ、ありがとよ!」



 ティファニーは、よく分からない感情で袋を受け取った。








「じゃ、またね〜」



 露天のお姉さんと、別れの挨拶をして。

 再び、都会の波と相対するメンバーたちであったが。




「ねぇちょっと、貰ったアクセサリー、早速着けてみない?」


「うんうん、わたしも!」




 どうやら、少女の心は抑えきれないようで。

 ルーシィ、メイリンと、袋の中へと手を伸ばす。




「はぁ。隊長と違って、こいつらは中身までガキだからな」




 ティファニーも観念したのか。

 とりあえず、貰ったアクセサリーを袋から出してみることに。


 すると、




「……あぁ?」



 すぐに、違和感に気づく。




「……」



 ティファニーだけでなく、ゼノビアも、それをひと目見ただけで気づいていた。





「どういうこった? なんで、7つもアクセサリーが入ってんだよ」





 ここに居るメンバーは、5人だけ。

 クロバラは現在はぐれており、アイリに至っては完全なる別行動。


 自分たちが全員で7人であると、あの怪しいお姉さんには一言も言っていない。




「あいつ、なにもんだ!?」




 とっさに、ティファニーは空を飛び。

 先ほど、露天があった場所に目を向ける。


 だがしかし、そこには何もなく。

 彼女がいた痕跡すら、残っていなかった。




「……」




 アンラベルのメンバー。仲間が全員で7人であることは、誰も口にしていない。

 何なら、少しの匂わせすらしていなかったはず。

 なのに彼女は、7人全員分のアクセサリーを袋に詰めていた。


 空に浮かんだまま、呆然とするティファニーであったが。




「ねぇ、ティファニーちゃん! ちょっとこれ見て!」




 自分を呼ぶメイリンの声を受け。

 釈然としない気持ちのまま、仲間の元へと戻っていった。






「ったく、今度はどうしたんだ?」



 アクセサリーが7つ入っていた時点で、すでに怪しさ満載だと言うのに。これ以上、何があるというのか。




「袋の底に、こんなものが入ってた」




 そう言って、ゼノビアが手にするのは、1枚の紙切れ。

 かなり下手くそな、手書きの地図のようなものが描かれており。


 何より驚くべきは、黄金の時計のマークが記されていること。




「このマーク、まさか」


「ええ。隊長の言っていた、ワルプルギスの紋章」




 怪しい露天の女性、7つのアクセサリー。

 それらの謎は、全てワルプルギスへと通じていた。






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