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第105話 希望の残り火

第105話 希望の残り火





「うわ〜! 死んじゃう!」


「うっせぇ! 殺すぞチビ!」


「わたし達はチビじゃなくて、まだ成長途中なだけ」


「テメェ、余裕もねぇのに黙ってろ!」




 それはまさに、絶体絶命のピンチと言う他ないだろう。


 アンラベルのメンバー6人。そんな僅か数名に対して、文字通り国中の魔法少女が束になって襲いかかってくるのだから。


 出来ることはただ1つ、全力で逃げること。




 まるで流星群にでも襲われているかのように、多種多様な魔法が雨あられと降り注いでくる。

 メンバーは、それを避け、時には魔法で弾き。

 敵地、レッドゾーンの外を目指す。



 先陣を切るのは、リーダーであるクロバラ。

 降りかかる魔法の8割は、クロバラの魔法、真っ赤な斬撃によって無力化される。

 他のメンバーは、その後ろを追いかけていた。


 気を失ったままのレベッカは、ティファニーが背負い。

 絶対にはぐれないよう、クロバラの後を追う。



 敵は、国中の魔法少女。まともにやり合っても、勝てる相手ではない。散り散りになって逃げた場合、全員で合流できる可能性は低いだろう。

 だからこそ、踏ん張るしか無い。




「おい隊長! いつものバリアはどうしたんだよ! アレがあれば、もっと安全に逃げられるんじゃねぇか?」




 ティファニーの指摘通り、クロバラは得意の魔力障壁を使っていない。

 使っているのは、いつもとは違う攻撃的な魔法。ナイフに纏わせた真っ赤な魔力による斬撃で、降り注ぐ魔法を掻き消していた。


 強力な魔法だが、あくまでも斬撃である。全ての魔法を防ぐことは出来ずに、ティファニーたちは流れ弾に気をつける必要があった。

 だがしかし、クロバラとて、好きでこのような魔法を使っているわけではない。




「悪いが、今のわたしは魔法の性質が反転している状態だ。つまるところ、いつもの魔法は使えない」


「はぁ!? んだそりゃ。お前それ、どうやったら元に戻せるんだ?」


「分からん! 多分だが、魔力を使い切らない限り治まりそうにない!」


「嘘だろ! お前」




 元々、半分賭けのような形で、クロバラはこの反転魔法という力を手に入れた。もしも失敗していた場合、娘のツバキ同様、精神に異常をきたしていたかも知れない。

 開発者であるシェルドンですら、未だに解明の進んでいない技術である。当然、反転魔法の解除方法など、教えてもらってはいない。




(とはいえ、このままでは不味いな)




 力を行使しながら、クロバラは考える。

 確かに、反転魔法が発動したおかげで、普段は無意識に抑えていた本来の力を発揮することが出来ている。もしも、この反転魔法の力がなかったら、デルタとレーツェンの二人を相手に、あれほど圧倒することも出来なかっただろう。


 しかし、この力は万能のパワーアップというわけではない。

 魔力障壁が使えないということは、無意識のうちに自分の精神が変わっているということ。


 今のクロバラは、ただ力を解放したわけではない。

 言うなれば、手加減が出来なくなったということ。




「ッ」




 いつもなら、意識せずとも魔力障壁を貼ることが出来る。

 しかし、今は魔力を構築しようとする段階で、固まらずに魔力が散っていってしまう。



 敵は、数十人、数百人規模の魔法少女たち。

 その質も様々であり、よく鍛錬された軍属の魔法少女から、ほぼ一般人と変わらない魔法少女まで。


 それが、今のクロバラにとっては一番厄介なことであった。




 魔法の雨を蹴散らすため、こちらは斬撃を一振するだけでいい。

 だがしかし、決して本気で魔法を放ってはいけない。


 先程まで戦っていた、デルタやレーツェンという魔法少女は、いわば最上位の魔法少女。それすらも圧倒してしまうクロバラの魔法は、今この場において強すぎてしまう。




 現に、クロバラの放った魔法の余波だけで、敵対する魔法少女の多くが吹き飛ばされている。

 流石に、あれで命がどうこうという怪我をすることは無いだろうが。


 仮に直撃でもさせてしまったら、それは致命的な一撃になるだろう。




 クロバラが、そんな事を考えていると。


 彼女の放った斬撃の間を縫うように、敵対する魔法少女が接近してくる。

 おそらくは軍属、それなりの実力者であろう。




 だがしかし、どう対処するべきか、クロバラは一瞬思考が止まる。

 斬撃は論外。拳や蹴りで反撃しようにも、今の自分に適度な手加減が出来るだろうか。


 そう、反応が遅れ。




「くそったれ!」


「きゃあ!」




 背後から放たれた雷撃によって、敵対する魔法少女は弾き飛ばされた。


 強力な一撃だが、命を奪うほどの威力ではない。




「すまないティファニー、助かった」


「ったく。こっちも手加減なんざ得意じゃねぇんだぞ」


「そうだな」




 相手が魔獣であれば、手加減などする必要がない。

 ゆえに、クロバラは今まで、魔法の手加減に関する訓練など行ってこなかった。


 しかし、今ティファニーが放った魔法は、明らかに手加減されたもの。かつての彼女、出会った頃からしてみたら、信じれない行動である。


 アンラベルの仲間たちも、クロバラの想定以上に進化を続けていた。





「それで、逃げる算段はついたんデスか?」


「うおっ、レベッカ。いきなり喋んな!」





 意識を失っていたレベッカが、ここでようやく目を覚ます。

 すでに回復は終わっているのか、華麗な身のこなしでティファニーの背中から飛び降りた。



 これで、ここにいるメンバーは、全員稼働状態に。




「ゼノビア、逃走ルートは?」


「正直、難しい。国境付近の防衛線に近寄れば、魔導デバイスによる砲撃が予想される。その全てを突破できないと」


「くそ。なおさら、わたしの防御魔法が必要となるわけか」




 今でさえ、敵魔法少女の攻撃を掻い潜るのに必死な状況である。それに、兵器による砲撃も加われば、もはや安全な突破は困難となる。




(防衛線の突破自体は、可能だろうが)




 今のクロバラには、強力無慈悲な魔法がある。どれほどの敵が立ち塞がろうと、それを打ち砕くことは可能であろう。

 だがしかし、そうなれば確実に、敵側の魔法少女にも被害が出てしまう。


 仲間の安全が第一なのは変わらない。

 けれども、相手も己の正義を信じている魔法少女に変わりはない。




 魔法少女を傷つける。

 たとえ、反転魔法によって自らの性質が変わっても、譲れないものがある。





「こうなったらわたしが先行して、敵の兵器だけを無力化できないか――」



 クロバラが、なんとか打開案を捻り出そうとしていると。






 光が。


 小さな光が、アンラベルの少女たちの中で輝き出す。






「これって、確か」



 懐から取り出したのは、手のひらに収まるほどのアクセサリー。

 この国にやって来た初日、とある魔女によって授けられたもの。




「……ミラビリスの、チャーム」




 クロバラが、その名を呼ぶ。

 かつての大戦時に活躍した、とある異名持ちの魔法少女を。





 絶望の中でこそ、その名は輝く。

 多くの魔法少女にとって、その名は伝説として残されている。





――希望の魔法少女、ミラビリス。





 かつての輝きを、今なお見せつけるように。

 メンバーの持つチャームは、強い輝きを放ち。


 力が、一つに。





 あまりの眩さに、多くの魔法少女たちが目を逸らし。

 気がつくと。





 アンラベルの少女たちは、その場より姿を消していた。
















 その輝きが消えると。

 アンラベルの少女たちは、見知らぬ建造物の中へと転移させられていた。


 壁や天井に空いた穴から光が差し。

 分かるのは、ボロボロの廃墟であることだけ。




「ようこそ〜、わたしの城へ。…………なんちゃって」




 そこで出迎えるのは、やはり一人の魔女。

 メンバーにアクセサリーを渡した張本人にして。それ以降姿を見せなかった、英国ワルプルギスの真の指導者。




「ミラビリス、か」


「その通り。一応、はじめましてになるかしら、クロバラ教官どの?」




 かつて、大戦時に活躍した異名持ちの魔法少女。

 クロバラにとってそれは、単なる過去の存在ではない。


 そして、ミラビリスもそれは理解していた。




「ここは、大昔に放棄された古城よ。ドイツだか、ローマ帝国だか。まっ、そんな事はどうでもいいか。大事なのは、とりあえず安全な場所ってこと」




 イギリス本土から、遠く離れた場所。

 ほんの一瞬で、メンバーはそこに転移したことになる。




「ミラビリス。お前、そんな魔法が使えたのか?」


「あはは、そんなわけないじゃん。現役時代ならともかく、今のわたしは老いぼれの魔女だよ? てか、たとえ現役でも、転移魔法なんて使えないって」




 ならば、この現象はどうやって説明するのか。




「あたしは、あんたらの力を束ねる手助けをしただけだよ。ほら、そのチャームを通じてね。とはいえ、まさかここまで瞬間移動してくるとは。正直、予想外だったけど」



 ミラビリスが指差すのは、メンバーに授けた希望のチャーム。




「こんなかで、瞬間移動できる奴いるの?」


「……一応。今のわたしなら、似たような真似はできるが」




 確かにクロバラは、反転魔法によって自らを花びらへと変え、自在に移動する力を手に入れた。

 だとすれば、希望のチャームを通じて、その魔法が全員に作用したのだろうか。




「まぁ、結果オーライね。最悪、ジェットみたいに吹っ飛んでくるのを予想してたから、安全でよかった」


「わたし達が脱出に困るだろうと、最初から予想していたのか?」


「べっつに。まぁ、相手がレーツェンだから、保険を何重にもかけるのは当然だよ」




 ミラビリスは、一体どこまで予測していたのか。

 とはいえ、彼女の力によって、クロバラたちは無事にイギリスから逃げることが出来た。





「ふぅ……」



 脱力するように、クロバラがその場にしゃがみ込むと。




 全身に纏わりついていた、真っ赤な魔力が消失し。

 自分の中で何かが切り替わるのを、クロバラは感じた。




「どうやら、戻ったらしい」




 クロバラが手をかざすと、そこに小さな魔力の球体が構築される。

 いつも通りの、青く優しい魔法である。


 全員を含めた転移によって、魔力を使い果たしたのか。

 クロバラの反転魔法は、効力を失っていた。




 すると。

 思い出したかのように、ティファニーが大声を上げる。




「つかテメェ、なに勝手に捕まって、おまけに変なパワーアップしてんだよ! あたしらがハイヴに潜入する間、テメェはお留守番って話だっただろ?」


「うっ。それは、確かにそうだが。こっちとしても、色々と予想外の事情があってだな」




 何もかも、予想外の連続であった。

 本来ならクロバラは、ハイヴに潜入する予定などなかったというのに。レーツェンの手によって、零領域へと連れて行かれ。

 そこで思わぬ再会と、敵の恐るべき計画を知ってしまった。




「そうだ。こいつが、何よりも大事だった」




 クロバラが懐から取り出したのは、一枚の手紙。

 古き友から授けられた、プリシラの遺書とも呼べる手紙である。



 ツバキを変えてしまった反転魔法や、ヴィクトリア女王の治療法。

 多くの問題を解決するために、必要なのはプリシラの知識であった。




(プリシラ。お前は最期に、何を残そうとしたんだ?)




 その痕跡を辿るべく、クロバラは手紙を開き。

 側にいた仲間たちも、一緒に中身に目を通して。




「これは――」




 手紙の内容に、全員が驚いた。






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