斜陽街三番街、まんぷく食堂。
おじいさんとおばあさんが、
空き地に屋台を引っ張ってきて、
椅子やテーブルなんかを置いて、
屋根のない食堂がある。
屋台一つなのに、いろいろなものが作り出される。
トンカツ、しょうが焼き、お粥、
頼めばなんだって作れる。
どこから食材を調達するかは不明だが、
今日もまんぷく食堂は、みんなのお腹を満腹にさせている。
「カツ重ひとつ」
「カレーひとつ」
注文をとりにいったおばあさんに、
好き勝手な注文が飛ぶ。
おばあさんはニコニコと注文をとって、
おじいさんにオーダーする。
おじいさんは難しい顔をして、
それでも手際よく注文の品を作って見せる。
ただの屋台にどれだけ食器があるのか、わからないが、
おじいさんは作ってしまう。
そして、おばあさんが料理をとことこと運ぶ。
「おまちどうさま」
おばあさんはニコニコ微笑んでいる。
屋台でおじいさんが難しい顔をしている。
いつもの顔らしい。
誰かが、斜陽街のまんぷく食堂に馴染んでいない誰かが、
おすすめは何だと聞く。
「おすすめ、そうねぇ」
おばあさんは考える。
「なんでも自信を持って出せるもの。なんでもおすすめよ」
おばあさんは笑う。
ふっくらした顔が、優しそうにゆれる。
「最高の料理人が何でも作ってくれますよ」
おじいさんが難しい顔をしてうなずく。
「自信があるのよ。みんなをまんぷくにさせるっていう」
おばあさんはニコニコ微笑んだ。
「さぁ、何にしましょうか」
馴染んでいない誰かも、こうして常連になっていく。
おじいさんが皿を洗う。
おばあさんがテーブルを拭く。
最初に比べればさまざまの器具が整ったかもしれない。
けれど、まんぷく食堂のモットーは、みんなをまんぷくにさせること。
それは今でも変わっていない。
「…自信がある」
おじいさんがぼそっとつぶやいた。
「ええ、自信がありますよ」
おばあさんが答える。
おじいさんは難しい顔をしている。
おばあさんはふふっと笑った。
「どうしたんですか」
「…なんでもない」
おじいさんは食器をそろえだす。
こういうときは、おじいさんは言葉を待っている。
「何年夫婦をやってると思ってるんですか」
「…そうだな」
「自信がありますよ。今だってね」
おじいさんはうなずく。
いつだって自信がある。
そんなまんぷく食堂の話。