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第371話 自信

斜陽街三番街、まんぷく食堂。

おじいさんとおばあさんが、

空き地に屋台を引っ張ってきて、

椅子やテーブルなんかを置いて、

屋根のない食堂がある。

屋台一つなのに、いろいろなものが作り出される。

トンカツ、しょうが焼き、お粥、

頼めばなんだって作れる。

どこから食材を調達するかは不明だが、

今日もまんぷく食堂は、みんなのお腹を満腹にさせている。


「カツ重ひとつ」

「カレーひとつ」

注文をとりにいったおばあさんに、

好き勝手な注文が飛ぶ。

おばあさんはニコニコと注文をとって、

おじいさんにオーダーする。

おじいさんは難しい顔をして、

それでも手際よく注文の品を作って見せる。

ただの屋台にどれだけ食器があるのか、わからないが、

おじいさんは作ってしまう。

そして、おばあさんが料理をとことこと運ぶ。

「おまちどうさま」

おばあさんはニコニコ微笑んでいる。

屋台でおじいさんが難しい顔をしている。

いつもの顔らしい。


誰かが、斜陽街のまんぷく食堂に馴染んでいない誰かが、

おすすめは何だと聞く。

「おすすめ、そうねぇ」

おばあさんは考える。

「なんでも自信を持って出せるもの。なんでもおすすめよ」

おばあさんは笑う。

ふっくらした顔が、優しそうにゆれる。

「最高の料理人が何でも作ってくれますよ」

おじいさんが難しい顔をしてうなずく。

「自信があるのよ。みんなをまんぷくにさせるっていう」

おばあさんはニコニコ微笑んだ。

「さぁ、何にしましょうか」

馴染んでいない誰かも、こうして常連になっていく。


おじいさんが皿を洗う。

おばあさんがテーブルを拭く。

最初に比べればさまざまの器具が整ったかもしれない。

けれど、まんぷく食堂のモットーは、みんなをまんぷくにさせること。

それは今でも変わっていない。

「…自信がある」

おじいさんがぼそっとつぶやいた。

「ええ、自信がありますよ」

おばあさんが答える。

おじいさんは難しい顔をしている。

おばあさんはふふっと笑った。

「どうしたんですか」

「…なんでもない」

おじいさんは食器をそろえだす。

こういうときは、おじいさんは言葉を待っている。

「何年夫婦をやってると思ってるんですか」

「…そうだな」

「自信がありますよ。今だってね」

おじいさんはうなずく。


いつだって自信がある。

そんなまんぷく食堂の話。



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