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第372話 地震

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


タケダは一通りコンビニの外を掃除する。

へんな持ち込みゴミが減らないのが困る。

それでも、きちんと片づけして、

今度は店内の掃除にかかる。

新商品はどうしたものかと考えながら、

陳列棚をいじったりする。

タケダは暇をもてあますのが苦手だ。

サラリーマン時代に働きづめだったこともある。

とにかく暇があれば掃除。

ポスターだって、フェアののぼりだって、

きれいにぴかぴかにしている。


タケダが店内の掃除をしてまもなく、

ぐらぐらと地面が揺れる。

地震だ。

陳列棚からお菓子がいくつか転げる。

「あらら」

タケダは危機感薄くそうつぶやいた。

そして、地震がおさまって、

タケダはお菓子を陳列棚に戻す。

他に被害らしい被害はないようだ。

ジュースも大丈夫だし、

おにぎりも陳列されている。

倒れたものもない。

もっと大きな地震が起きたらきっと大変だろう。

タケダは、テレビでやっていた、どこかの地震による被害を思い出す。

コンビニなんてひとたまりもないだろうな。

そう思うと、地域の便利屋も小さなものだと思う。


「最近地震が多いなぁ」

タケダはつぶやく。

小さな地震がこのあたりで頻発している。

「悪いことがなければいいけど、くわばらくわばら」

タケダは呪文のようなものを唱えてみる。

くわばらは雷よけだっけかと思い直すが、

地震よけのまじないなんて知らない。

それでも嫌な予感だけはする。

「すみませーん」

お客がやってきたようだ。

「はいはい」

タケダはレジに走る。

嫌な予感はしていても、お客はやってくるし、

予感があったところで何が出来るわけでもない。

予感で何でもできるんだったら、

宝くじでも買って大当たりさせる。

そんなことをぼんやりタケダは思う。


お客を見送り、

タケダはため息をつく。

やっぱり働くのが好きだ。

地域の皆さんと一緒になって、

地に足がついて働くのが好きだ。

一人じゃないと思える。

ここでがんばっているんだぞと思える。

嫌な予感はぬぐいきれない。

それでも、と、タケダは思う。

小さなコンビニなりにやっていけば平気さ。


くらくらと地面が揺れた気がした。

気のせいかもしれないが、やっぱりいい気分はしなかった。

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