これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
タケダは一通りコンビニの外を掃除する。
へんな持ち込みゴミが減らないのが困る。
それでも、きちんと片づけして、
今度は店内の掃除にかかる。
新商品はどうしたものかと考えながら、
陳列棚をいじったりする。
タケダは暇をもてあますのが苦手だ。
サラリーマン時代に働きづめだったこともある。
とにかく暇があれば掃除。
ポスターだって、フェアののぼりだって、
きれいにぴかぴかにしている。
タケダが店内の掃除をしてまもなく、
ぐらぐらと地面が揺れる。
地震だ。
陳列棚からお菓子がいくつか転げる。
「あらら」
タケダは危機感薄くそうつぶやいた。
そして、地震がおさまって、
タケダはお菓子を陳列棚に戻す。
他に被害らしい被害はないようだ。
ジュースも大丈夫だし、
おにぎりも陳列されている。
倒れたものもない。
もっと大きな地震が起きたらきっと大変だろう。
タケダは、テレビでやっていた、どこかの地震による被害を思い出す。
コンビニなんてひとたまりもないだろうな。
そう思うと、地域の便利屋も小さなものだと思う。
「最近地震が多いなぁ」
タケダはつぶやく。
小さな地震がこのあたりで頻発している。
「悪いことがなければいいけど、くわばらくわばら」
タケダは呪文のようなものを唱えてみる。
くわばらは雷よけだっけかと思い直すが、
地震よけのまじないなんて知らない。
それでも嫌な予感だけはする。
「すみませーん」
お客がやってきたようだ。
「はいはい」
タケダはレジに走る。
嫌な予感はしていても、お客はやってくるし、
予感があったところで何が出来るわけでもない。
予感で何でもできるんだったら、
宝くじでも買って大当たりさせる。
そんなことをぼんやりタケダは思う。
お客を見送り、
タケダはため息をつく。
やっぱり働くのが好きだ。
地域の皆さんと一緒になって、
地に足がついて働くのが好きだ。
一人じゃないと思える。
ここでがんばっているんだぞと思える。
嫌な予感はぬぐいきれない。
それでも、と、タケダは思う。
小さなコンビニなりにやっていけば平気さ。
くらくらと地面が揺れた気がした。
気のせいかもしれないが、やっぱりいい気分はしなかった。