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第374話 腰痛薬

斜陽街一番街、電脳中心。

ここには電脳娘々という娘がいて、

電脳に関する検索や、電脳に関する改造などをしている。

電脳に関することなら大抵のことがそろう。

普段の電脳娘々は、

古い中国人民服を着て、

電脳専用らしいゴーグルをかけて、

電脳の世界へとダイブしていることが多い。

コードが電脳娘々に繋がっているようにも見える。

実際つなげているのかもしれない。

感覚まで電脳にしているようにも見える。

客の少ない斜陽街で、

電脳娘々はハイスピードの電脳を相手にしている。


そんな電脳娘々にも悩みがある。

電脳世界に行くことは何の苦でもない。

感覚を操り、情報を操り、バクを取り除き、

たまには電脳の風水だって正す。

それはなんら問題ではない。

問題は生身の身体に戻ってきたとき。

電脳娘々の生身はいつも椅子に座ったまま、同じ格好をしている。

そこから来る悩み。

腰痛だ。


「あいててて…」

いつものように電脳のダイブから戻ってきて、

電脳娘々はゴーグルを外しながら悲鳴を上げた。

肩が重い。

腰が痛い。

空腹もあるかもしれない。

全てを電脳制御にすれば楽だろうかと、ちらっと思う。

それは嫌だと思った。

伸びを一つ。

こきこきっと身体が鳴る。

「腰痛薬、腰痛薬」

言いながらコードや器具で散らかった部屋の中を探す。

薬師からもらった腰痛薬があるはずと。

箱だけが見つかった。

中身はない。

「うそでしょー…」

薬がないとわかると腰痛はもっとひどくなった気がする。

身体中が悲鳴を上げている。


「こんにちはー」

電脳中心の入り口で声がする。

「電脳娘々さん、いる?」

聞き間違えない薬師の声だ。

「いるよー」

元気悪く電脳娘々は答える。

「お薬そろそろ切れるかなと思って、新しいの持ってきたよ」

「ありがとう、今出るね」

電脳娘々は腰を抑えながら立ち上がった。


薬師は腰痛の薬だけでなく、

肩こりや疲れ目、その他、

電脳に関するような薬を調合してくれていた。

「運動不足じゃない?」

薬師が心配そうに尋ねる。

「電脳走り回ってるから、運動不足って感じないのよね」

「あとで、まんぷく食堂で何か食べたほうがいいよ」

「心配してくれるんだ」

「当然でしょ」

薬師が微笑む。

電脳娘々は、こういう人の縁も大事かなと感じた。

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