斜陽街一番街、電脳中心。
ここには電脳娘々という娘がいて、
電脳に関する検索や、電脳に関する改造などをしている。
電脳に関することなら大抵のことがそろう。
普段の電脳娘々は、
古い中国人民服を着て、
電脳専用らしいゴーグルをかけて、
電脳の世界へとダイブしていることが多い。
コードが電脳娘々に繋がっているようにも見える。
実際つなげているのかもしれない。
感覚まで電脳にしているようにも見える。
客の少ない斜陽街で、
電脳娘々はハイスピードの電脳を相手にしている。
そんな電脳娘々にも悩みがある。
電脳世界に行くことは何の苦でもない。
感覚を操り、情報を操り、バクを取り除き、
たまには電脳の風水だって正す。
それはなんら問題ではない。
問題は生身の身体に戻ってきたとき。
電脳娘々の生身はいつも椅子に座ったまま、同じ格好をしている。
そこから来る悩み。
腰痛だ。
「あいててて…」
いつものように電脳のダイブから戻ってきて、
電脳娘々はゴーグルを外しながら悲鳴を上げた。
肩が重い。
腰が痛い。
空腹もあるかもしれない。
全てを電脳制御にすれば楽だろうかと、ちらっと思う。
それは嫌だと思った。
伸びを一つ。
こきこきっと身体が鳴る。
「腰痛薬、腰痛薬」
言いながらコードや器具で散らかった部屋の中を探す。
薬師からもらった腰痛薬があるはずと。
箱だけが見つかった。
中身はない。
「うそでしょー…」
薬がないとわかると腰痛はもっとひどくなった気がする。
身体中が悲鳴を上げている。
「こんにちはー」
電脳中心の入り口で声がする。
「電脳娘々さん、いる?」
聞き間違えない薬師の声だ。
「いるよー」
元気悪く電脳娘々は答える。
「お薬そろそろ切れるかなと思って、新しいの持ってきたよ」
「ありがとう、今出るね」
電脳娘々は腰を抑えながら立ち上がった。
薬師は腰痛の薬だけでなく、
肩こりや疲れ目、その他、
電脳に関するような薬を調合してくれていた。
「運動不足じゃない?」
薬師が心配そうに尋ねる。
「電脳走り回ってるから、運動不足って感じないのよね」
「あとで、まんぷく食堂で何か食べたほうがいいよ」
「心配してくれるんだ」
「当然でしょ」
薬師が微笑む。
電脳娘々は、こういう人の縁も大事かなと感じた。