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第375話 当籤

斜陽街一番街、病気屋。

ここには熊のようにもっさりとした大柄な病気屋がいる。

病気を研究し、病気を売るのが仕事だ。

治せない病気は売らない。

それをモットーにしている。

今日も病気屋は消毒のアルコールの匂いのする店内の中、

病気のカプセルを作ったり、

書類になにやら書き込んだりしている。


「こーんにーちはー」

病気屋の入り口で、気の抜けた挨拶がある。

「どうぞ、開いてるよ」

病気屋は病原菌のシャーレをしまうと、

もっさりと表口へと向かう。

そこには合成屋がいた。

「今、忙しいですか?」

「いいや、いつものように暇だよ」

「じゃあ、お試しにどうぞ」

合成屋が箱を差し出す。

「くじ箱なのです当たりは一枚なのです」

「へぇ、面白いね」

「一人一回なのです。どうぞ」

「それじゃお言葉に甘えて」

病気屋がくじ箱に手を突っ込む。

ごそごそかき回して一枚ひく。

「これを開けばいいのかな」

「はい」

はやる鼓動を抑えながら、くじを開く。

そこには、ミミズののたくったような文字で、

当たりと確かに書いてあった。

「大当たりー」

のっぺらぼうの合成屋がうれしそうに踊る。

「当たりですのでペアチケットをどうぞです」

合成屋は懐からペアチケットを取り出す。

「ああ、どうも…いいのかなぁ?」

「いいんですよ」

合成屋は一人でうんうんとうなずく。

「ペアといわれてもなぁ…」

「いいじゃありませんか」

合成屋は問題ないように話す。

「熱屋さんを誘えばいいじゃないですか」

「え、あ、うん、そうだけど」

病気屋はおろおろする。

「病気屋さんが誘えば一発ですよ」

「その、あの」

「それじゃ、おめでとうございましたー」

合成屋は楽しそうに帰って行った。

あとには困った病気屋が残った。

病気屋は合成屋が出て行った扉を閉めようとする。

「あ」

小さく声がする。

隣の店から熱屋が出てきていた。

(誘うなら今だ!)

病気屋の頭の中で、誰かが声をかけた気がする。

「あの、こんにちは」

「うん」

「さっき合成屋が来ててね」

「うん」

「くじを引いたらペアチケットがあたったんだ」

「うん」

「あの、いっしょに、どうですか」

熱屋はうっすら笑みを浮かべた。

「喜んで」


こうして合成屋のペアチケットは、

病気屋と熱屋の手に渡った。

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