斜陽街一番街、病気屋。
ここには熊のようにもっさりとした大柄な病気屋がいる。
病気を研究し、病気を売るのが仕事だ。
治せない病気は売らない。
それをモットーにしている。
今日も病気屋は消毒のアルコールの匂いのする店内の中、
病気のカプセルを作ったり、
書類になにやら書き込んだりしている。
「こーんにーちはー」
病気屋の入り口で、気の抜けた挨拶がある。
「どうぞ、開いてるよ」
病気屋は病原菌のシャーレをしまうと、
もっさりと表口へと向かう。
そこには合成屋がいた。
「今、忙しいですか?」
「いいや、いつものように暇だよ」
「じゃあ、お試しにどうぞ」
合成屋が箱を差し出す。
「くじ箱なのです当たりは一枚なのです」
「へぇ、面白いね」
「一人一回なのです。どうぞ」
「それじゃお言葉に甘えて」
病気屋がくじ箱に手を突っ込む。
ごそごそかき回して一枚ひく。
「これを開けばいいのかな」
「はい」
はやる鼓動を抑えながら、くじを開く。
そこには、ミミズののたくったような文字で、
当たりと確かに書いてあった。
「大当たりー」
のっぺらぼうの合成屋がうれしそうに踊る。
「当たりですのでペアチケットをどうぞです」
合成屋は懐からペアチケットを取り出す。
「ああ、どうも…いいのかなぁ?」
「いいんですよ」
合成屋は一人でうんうんとうなずく。
「ペアといわれてもなぁ…」
「いいじゃありませんか」
合成屋は問題ないように話す。
「熱屋さんを誘えばいいじゃないですか」
「え、あ、うん、そうだけど」
病気屋はおろおろする。
「病気屋さんが誘えば一発ですよ」
「その、あの」
「それじゃ、おめでとうございましたー」
合成屋は楽しそうに帰って行った。
あとには困った病気屋が残った。
病気屋は合成屋が出て行った扉を閉めようとする。
「あ」
小さく声がする。
隣の店から熱屋が出てきていた。
(誘うなら今だ!)
病気屋の頭の中で、誰かが声をかけた気がする。
「あの、こんにちは」
「うん」
「さっき合成屋が来ててね」
「うん」
「くじを引いたらペアチケットがあたったんだ」
「うん」
「あの、いっしょに、どうですか」
熱屋はうっすら笑みを浮かべた。
「喜んで」
こうして合成屋のペアチケットは、
病気屋と熱屋の手に渡った。