斜陽街三番街、がらくた横丁。
螺子師はそこで店を開いている。
頭の螺子の調節。
身体の螺子の調節。
螺子師にしか見えない螺子を調節して、
身体の具合をよくするという仕組みだ。
螺子師はいつものように店を開ける。
自分の螺子の調子は見た。
そこそこいい感じだ。
店にかかっている札を営業中にする。
螺子師は伸びをする。
螺子が締まっているのが気持ちいい。
斜陽街の風、締まる螺子、
今日もいい日になるといいなと思った。
「やぁどうも」
螺子師の店から逆さまになって現れるやつがいる。
こいつは螺子ドロボウ。
調節のための螺子を盗んでしまう悪いやつだ。
だから螺子師は不機嫌になる。
「何の用だ」
「遊びに来たよ」
螺子師はイライラを腹の中におさめる。
螺子ドロボウはつい最近からしている片眼鏡をくいっとずらす。
そのしぐさすら、腹がたつ。
「いい加減逆さまで出てくるな」
「逆さまもいい感じだよ」
「また螺子を盗みに来たのか」
「あわよくば、かな」
「とっととどこか行ってしまえ」
螺子師はぷりぷりしている。
いい一日のはずなのに、しょっぱなからこれだ。
「螺子は求めるものに与えよ、だっけか」
「螺子師検定試験の根底だけども、螺子ドロボウにはやらん」
「あー、ひどいんだー」
「盗むやつなんて想定していないんだろう」
「もう一度試験を受ければいいんだ」
「せっかく資格を取ったのにまた?」
「螺子ドロボウに螺子をくれるようになるかもしれない!」
「却下。あんなめんどくさい試験、二度と受けるか」
螺子師は思い出す。
螺子の全て、機械の初歩的な仕組みから、歯車のあり方。
仕組みのうちに螺子はあり、螺子は全ての中心を留めている。
基礎から応用まで、そのために果てしなく勉強をした。
いまさら螺子ドロボウに螺子を与えるためになんて、
あの勉強を繰り返すなんてもってのほかだ。
「やっぱり試験は難しかった?」
螺子ドロボウがひょいと飛び降りてたずねる。
「ドロボウになるよりずっと難しい」
「おやおやそれはすごい」
「だから、二度と目の前に来るな。不愉快だ」
「でも来ちゃうよ」
螺子ドロボウはにんまりと笑う。
螺子師のいらいらは頂点に達した。
「どこか行っちまえ!螺子ドロボウの癖に!」
螺子師は怒鳴る。
螺子ドロボウはにんまり笑うと、
「また来るよ」
と、言い残して闇に消えていった。