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第376話 試験

斜陽街三番街、がらくた横丁。

螺子師はそこで店を開いている。

頭の螺子の調節。

身体の螺子の調節。

螺子師にしか見えない螺子を調節して、

身体の具合をよくするという仕組みだ。


螺子師はいつものように店を開ける。

自分の螺子の調子は見た。

そこそこいい感じだ。

店にかかっている札を営業中にする。

螺子師は伸びをする。

螺子が締まっているのが気持ちいい。

斜陽街の風、締まる螺子、

今日もいい日になるといいなと思った。


「やぁどうも」

螺子師の店から逆さまになって現れるやつがいる。

こいつは螺子ドロボウ。

調節のための螺子を盗んでしまう悪いやつだ。

だから螺子師は不機嫌になる。

「何の用だ」

「遊びに来たよ」

螺子師はイライラを腹の中におさめる。

螺子ドロボウはつい最近からしている片眼鏡をくいっとずらす。

そのしぐさすら、腹がたつ。

「いい加減逆さまで出てくるな」

「逆さまもいい感じだよ」

「また螺子を盗みに来たのか」

「あわよくば、かな」

「とっととどこか行ってしまえ」

螺子師はぷりぷりしている。

いい一日のはずなのに、しょっぱなからこれだ。


「螺子は求めるものに与えよ、だっけか」

「螺子師検定試験の根底だけども、螺子ドロボウにはやらん」

「あー、ひどいんだー」

「盗むやつなんて想定していないんだろう」

「もう一度試験を受ければいいんだ」

「せっかく資格を取ったのにまた?」

「螺子ドロボウに螺子をくれるようになるかもしれない!」

「却下。あんなめんどくさい試験、二度と受けるか」

螺子師は思い出す。

螺子の全て、機械の初歩的な仕組みから、歯車のあり方。

仕組みのうちに螺子はあり、螺子は全ての中心を留めている。

基礎から応用まで、そのために果てしなく勉強をした。

いまさら螺子ドロボウに螺子を与えるためになんて、

あの勉強を繰り返すなんてもってのほかだ。


「やっぱり試験は難しかった?」

螺子ドロボウがひょいと飛び降りてたずねる。

「ドロボウになるよりずっと難しい」

「おやおやそれはすごい」

「だから、二度と目の前に来るな。不愉快だ」

「でも来ちゃうよ」

螺子ドロボウはにんまりと笑う。

螺子師のいらいらは頂点に達した。

「どこか行っちまえ!螺子ドロボウの癖に!」

螺子師は怒鳴る。

螺子ドロボウはにんまり笑うと、

「また来るよ」

と、言い残して闇に消えていった。

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