斜陽街番外地、砂屋。
シキは白紙の多い本を頭に、ふよふよと飛んでいた。
大分いろんな人に書いてもらった。
斜陽街には、まだまだ、たくさんの住人がいる。
シキは当てなんてなく飛んでいる。
たまたま行き着いたのが砂屋だ。
「ま、宣伝でも書いてもらうか」
シキは自分で納得すると、
すだれのかかった砂屋に入っていった。
砂屋は一言で言うとアジアン。
ただ、ちょっと無国籍が混じっている。
店の前にはすだれがかかっていて、
店の中には、区切られた器に入って砂が並んでいる。
青、赤、白黒さまざまの砂。
それが混ざることなく整然と並んでいる。
砂屋の主人はアジアの編み笠をかぶった男で、
砂を読むことが出来るらしい。
砂を読めば混じらせないことが出来るらしい。
「邪魔するよ」
シキが店に入ると、
ちりちりちりんと金属の音がする。
扉がないので、金属の棒がつるされたやつを置いているらしい。
「はいはい」
奥から砂屋の店主が顔を出す。
「ああ、お魚さん」
「よぉ」
「色の具合はどうですか?」
「すこぶるいい感じだ」
シキは以前ここで色をもらっている。
出所は不明だが、とてもいい色だった。
今もシキの身体できらきら息づいている色だ。
「それで、今日は何か?」
「この本に何か書いて欲しいんだ」
「本、ですか?」
砂屋が本を手にする。
ぱらぱらめくってうんうん頷く。
「なんでもありなんですね」
「そうなんだよ。どうだい一筆」
「そうですねぇ」
砂屋は店内を見渡した。
砂、砂、砂の店内だ。
「判子でどうでしょう」
「はんこ?」
「砂判子がありますから、それで」
「へぇ、どんなものなんだい?」
「ちょっと待ってくださいね」
砂屋は無造作に砂の器を手にする。
いくつかから少しずつ砂をつかむと、
手の中で混ぜ合わせる。
「よし、と」
砂屋は短く言うと、片手に砂を集めた。
「白紙のページならどこでもいいですか?」
「おうよ」
「では、失礼して」
砂屋は白紙のページを開くと、
集めた砂をぺちっと押し当てた。
ぐりぐりと押し込む。
そして、また、砂をはがす。
白紙だったページには、
かわいらしい金魚の判子が押された。
「砂の色を移す判子です」
砂屋が簡単に説明する。
「金魚は幸運を呼ぶといいます。縁起のいい判子です」
「なるほどな。ありがとよ」
シキは本をまた頭の上に乗せると、
斜陽街へと出て行った。