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第378話 調査

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


プールは海になろうとしている。

水泳部の部員が顧問に連絡した。

職員室にいた顧問は、最初信じなかった。

それでも、プールまで引っ張られて信じざるを得なかった。

魚がクラゲが、波立つプールの中にいる。

まるで海だ。

そう思わざるを得ない。

「お前ら何をしたんだ?」

顧問は尋ねるが、

水泳部の部員は何もしていない。

そう答えるしかない。


怪獣のようなコンクリートの校舎。

古ぼけたコンクリートの校舎。

その下で、海が出来ている。

それしか理解できない。


顧問は考える。そして、

「とりあえず町役場に頼んでみるか」

「なんて言うんです?」

顧問は困った。

「プールが大変なんですと言うか」

水泳部はなんとも言えなかった。

彼らでも同じことしか言えないだろうと思った。


魚影すら見えるプールにたたずみ、

しばらくしたら町役場の職員がやってきた。

「遊園地の次はプールですか…」

ぼそぼそ言っていたが、すぐさま調査にかかる。

「海のようだということですね」

「はい、どこかから魚も現れたようで」

「はいはい」

町役場の職員数人で、水質や魚などの調査に当たる。

難しい顔をして調査をする。

顧問が、水泳部が、固唾を呑んで見守っている。

「理解できないことです」

町役場の職員がつぶやく。

「海の水をここに移したわけじゃないですよね」

「そんなことして何になるんですか」

顧問はちょっと怒った。

「いえいえ、怒らないでください」

「一体どんな結果が出たんですか」

「そうですねぇ」

町役場の職員が調査の結果を見る。

「あまりにも完璧に海です」

「はぁ?」

水泳部の部員がひっくり返った声を上げる。

「いえ、水質調査と魚の調査でしかありませんけど…」

「あまりにも海?」

「はい、完璧に海です。海と繋がっているとしか思えません」

「ここは町中のプールですけど」

「でも、調査結果は海です。結果だけですけど」

「ありえない」

「ありえないです。でも、現時点では…」

皆がプールを見る。

クラゲが浮いているし、魚影は見えるし、波も立っている。

「どう見ても海なのです」


顧問はため息をついた。

町役場の職員もため息をつく。

説明しようがない。

ここはもしかしたらねじれた海なのかもしれない。

「どうなっちゃうんだろうな」

水泳部の一人がつぶやいた。

誰もそれに答えられなかった。

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