これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
蛇腹の扉の中に入った。
そこは天井の低い部屋だ。
三人娘程度の身長では問題ないが、
もっと高かったらちょっと困る。その程度だ。
カモメは部屋を見回す。
「なんだろう、ここ」
アオイは天井を見る。
「電気来てるね」
低い天井にファンが回っている。
アカネが歩き出す。
「誰かいるかな」
部屋の中には棚がたくさんある。
そして、本がたくさん置いてある。
棚の影に人影がある。
話しかけようとして、思いとどまる。
何故かはわからないが、
棚の影にいるそれらの少ない影は、
一心不乱に、本を読んでいるようであり、
また、顔がまったくわからなかった。
この距離なら顔がわかるだろうとは思ったが、
本の影か、あるいは顔をなくしたのか、
幽霊のように、人影は本の棚に立っている。
「ここはなんだろう、本屋かな」
カモメが平積みされた本を見る。
見たことのない本だ。
「同人誌とも違うようだね」
アオイは厚みのある本を手に取る。
やっぱりどこの本かわからない。
「図書館とも違う感じだね」
アカネが本をぱらぱらめくる。
一瞬ぞっとする。
何か理解できないものに触れたような気がして、
アカネはあわてて本を置いた。
「アカネ?」
「なんだか、怖い感じがしたよ」
アオイはページをめくる。
何かに吸い込まれるような感覚を持つ。
本に吸い込まれる?
「アオイ!アオイ!」
カモメがアオイを揺らす。
「あ、うん」
「なんだかどこかに行ってなかった?」
カモメの口からそんな台詞が出た。
カモメも言ったあとで不思議そうな顔をした。
「行ってたかもしれない」
アオイは答える。
アカネが震える。そして答える。
「なんだかあたしたちの知ってる本じゃないのかもしれない」
「うん」
答えながらアオイは本を置く。
そして、改めて本の表紙をながめる。
一見意味のあるタイトル。
一見普通の表紙。
同じものはない。
「同じのがないね」
カモメも同じ感想を持ったらしい。
「吸い込むほどの本が、集まる本屋ってことかな」
アオイは推論する。
「吸い込むって、魂を?」
アカネが震えながら問う。
カモメが答える。
「世界に引き込む力が強いのかも」
「世界に?」
「そんな感じがしただけ」
ここは何か違う本屋なのかもしれない。
三人娘はそう感じた。