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第379話 本屋

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


蛇腹の扉の中に入った。

そこは天井の低い部屋だ。

三人娘程度の身長では問題ないが、

もっと高かったらちょっと困る。その程度だ。

カモメは部屋を見回す。

「なんだろう、ここ」

アオイは天井を見る。

「電気来てるね」

低い天井にファンが回っている。

アカネが歩き出す。

「誰かいるかな」


部屋の中には棚がたくさんある。

そして、本がたくさん置いてある。

棚の影に人影がある。

話しかけようとして、思いとどまる。

何故かはわからないが、

棚の影にいるそれらの少ない影は、

一心不乱に、本を読んでいるようであり、

また、顔がまったくわからなかった。

この距離なら顔がわかるだろうとは思ったが、

本の影か、あるいは顔をなくしたのか、

幽霊のように、人影は本の棚に立っている。


「ここはなんだろう、本屋かな」

カモメが平積みされた本を見る。

見たことのない本だ。

「同人誌とも違うようだね」

アオイは厚みのある本を手に取る。

やっぱりどこの本かわからない。

「図書館とも違う感じだね」

アカネが本をぱらぱらめくる。

一瞬ぞっとする。

何か理解できないものに触れたような気がして、

アカネはあわてて本を置いた。

「アカネ?」

「なんだか、怖い感じがしたよ」

アオイはページをめくる。

何かに吸い込まれるような感覚を持つ。

本に吸い込まれる?

「アオイ!アオイ!」

カモメがアオイを揺らす。

「あ、うん」

「なんだかどこかに行ってなかった?」

カモメの口からそんな台詞が出た。

カモメも言ったあとで不思議そうな顔をした。

「行ってたかもしれない」

アオイは答える。

アカネが震える。そして答える。

「なんだかあたしたちの知ってる本じゃないのかもしれない」

「うん」

答えながらアオイは本を置く。

そして、改めて本の表紙をながめる。

一見意味のあるタイトル。

一見普通の表紙。

同じものはない。

「同じのがないね」

カモメも同じ感想を持ったらしい。

「吸い込むほどの本が、集まる本屋ってことかな」

アオイは推論する。

「吸い込むって、魂を?」

アカネが震えながら問う。

カモメが答える。

「世界に引き込む力が強いのかも」

「世界に?」

「そんな感じがしただけ」


ここは何か違う本屋なのかもしれない。

三人娘はそう感じた。

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