これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
アキは中空を飛ぶ。
スピードがどんどん出る。
海の向こうへ行きたいと強く思った。
そこは世界の果てだろうか。
何かアキを求めてくれるものがあるだろうか。
アキがあれほど脱出したかった世界から、
覚えていない世界から、
アキは生まれ変わったのかもしれない。
アキという名前だけ持って、
アキは生まれ変わってここを飛んでいる。
アキの足元は海だ。
広い広い海だ。
アキは意識を下に向ける。
くるくる舞いながら、アキは海のすれすれまで落ちる。
海にさざなみができる。
アキが飛ぶと、そこからわずかしぶきが上がる。
アキは目を細める。
空を飛ぶのは心地がいい。
どうしてここに早く来なかったのだろう。
アキは海の上でくるくる回転する。
しぶきがきらきらと上がる。
覚えていない過去。
未来が大事だから過去がなくても、
そんなことを、どこかで聞いた気がする。
未来が大事。
アキでないアキが聞いたような感覚。
ああ、あたしは何度も生まれ変わっているんだろうか。
アキはそんなことを思った。
くるりくるり。
アキは舞を舞うように海の上を回転する。
凪いだ海の上。
誰も見ていない海の上。
アキ一人の舞台。
アキは舞う。
中空を舞う。
すべる波しぶき、
どこかへ繋がっているような感覚。
誰かに求められたい。
誰かを求めたい。
また、生まれ変わりたい。
死にたいのではなく、
何度も生まれ変わりたい。
アキは回転する。
くるりくるり舞うように。
上昇、下降、誰もいない海の上、自由に。
ウミネコが行く。
足元に魚がいる。
生の営み。
生きて、いる。
アキは生きているはず。
過去から脱出して、
今を生きているはず。
くるりくるりアキはめぐる。
ウミネコの声がする。
魚を狙っている。
アキは魚でもウミネコでもない。
中空で回るアキ。
求められたい。
誰かに強く求められたい。
アキは願う。
願って、飛ぶ。
生きて、いる。
自由を得た。
過去を捨てた。
アキは未来を欲した。
誰かに求められる未来。
それはまためぐることのような気もしたし、
また同じことを繰り返すのかと心がざわめく。
アキは回る。
くるくると回る。