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第380話 回転

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


アキは中空を飛ぶ。

スピードがどんどん出る。

海の向こうへ行きたいと強く思った。

そこは世界の果てだろうか。

何かアキを求めてくれるものがあるだろうか。

アキがあれほど脱出したかった世界から、

覚えていない世界から、

アキは生まれ変わったのかもしれない。

アキという名前だけ持って、

アキは生まれ変わってここを飛んでいる。


アキの足元は海だ。

広い広い海だ。

アキは意識を下に向ける。

くるくる舞いながら、アキは海のすれすれまで落ちる。

海にさざなみができる。

アキが飛ぶと、そこからわずかしぶきが上がる。

アキは目を細める。

空を飛ぶのは心地がいい。

どうしてここに早く来なかったのだろう。

アキは海の上でくるくる回転する。

しぶきがきらきらと上がる。

覚えていない過去。

未来が大事だから過去がなくても、

そんなことを、どこかで聞いた気がする。

未来が大事。

アキでないアキが聞いたような感覚。

ああ、あたしは何度も生まれ変わっているんだろうか。

アキはそんなことを思った。


くるりくるり。

アキは舞を舞うように海の上を回転する。

凪いだ海の上。

誰も見ていない海の上。

アキ一人の舞台。

アキは舞う。

中空を舞う。

すべる波しぶき、

どこかへ繋がっているような感覚。

誰かに求められたい。

誰かを求めたい。

また、生まれ変わりたい。

死にたいのではなく、

何度も生まれ変わりたい。

アキは回転する。

くるりくるり舞うように。

上昇、下降、誰もいない海の上、自由に。


ウミネコが行く。

足元に魚がいる。

生の営み。

生きて、いる。

アキは生きているはず。

過去から脱出して、

今を生きているはず。

くるりくるりアキはめぐる。

ウミネコの声がする。

魚を狙っている。

アキは魚でもウミネコでもない。

中空で回るアキ。

求められたい。

誰かに強く求められたい。

アキは願う。

願って、飛ぶ。


生きて、いる。

自由を得た。

過去を捨てた。

アキは未来を欲した。

誰かに求められる未来。

それはまためぐることのような気もしたし、

また同じことを繰り返すのかと心がざわめく。


アキは回る。

くるくると回る。

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