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第381話 縛

斜陽街三番街、教会。

ここは斜陽街の三番街を、

がらくた横丁と逆に進んだところにある教会だ。

中外かまわず、うっそうと植物が生い茂っていて、

うっすら残る十字架が、そこを教会としている。

たまに懺悔をしに来る者もいるらしい。

教会は手入れされることもないまま、

ひっそりとそこにある。


がさがさと植物を踏む音がして、

鎖師が教会にやってきた。

金属の鎖を身体に引っ掛けて、

いつものように表情は薄い。

「手入れしないのが、ここらしいわね」

鎖師はつぶやく。

そして、壊れた扉から、教会の中に入る。

中も雑草がそこかしこにあり、

椅子は役目を果たしていない。

鎖師は真ん中まで進むと、

その目で十字架を見つめた。


「その教えは縛めになりませんでしたか」

鎖師は問いかけるようにつぶやく。

「重い重い縛めになりませんでしたか」

鎖師はわかっている。

重い縛めになっても、

教えに束縛と見られていても、

そのために、この教会の十字架はあった。

教えに殉ずるとか、言えば簡単かもしれない。

でも、多分、そこには愛もあった。

最も重い鎖のような感情。

何かに向けての愛。

全てに向けての愛。

重い重い縛めのような、鎖のような、愛。

十字架はそれを背負った。

世界中の愛を背負った。

鎖を扱う鎖師にも出来ないことだ。


重い重い縛めだとしても。

脱ぎ捨てることなく鎖を背負ったもの。

一言で言い表せない、

教えを実行するということ。

「真似できないね」

鎖師は真似できない。

だから教えは今でも残る。

無宗教に近い斜陽街に、

イメージとしての教会が残っている。

全てを受け入れてくれる場所として、

懺悔の場所として残る。

鎖師も例に漏れず無宗教だ。

でも、この場所は好きだ。

誰にも強制されず、

祈ってもいいのだと、

うっすら残る十字架が受け入れてくれる気がする。

それは腐っていない場所だ。

鎖師か腐って死ぬ属性を発動させてしまっても、

ここは腐らないような、そんな気がした。


縛めを、教えを、鎖のように背負ったもの。

鎖師は十字架にかけられたその像がなくても、

イメージとして教えが繋がっていくような気がした。

誰も世界中を愛することは出来ない。

でも、世界中を愛するというイメージならここに残っている。

鎖師はそう感じた。


「ありがとう」

鎖師は中空に言葉を放つと、

教会をあとにした。

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