斜陽街三番街、教会。
ここは斜陽街の三番街を、
がらくた横丁と逆に進んだところにある教会だ。
中外かまわず、うっそうと植物が生い茂っていて、
うっすら残る十字架が、そこを教会としている。
たまに懺悔をしに来る者もいるらしい。
教会は手入れされることもないまま、
ひっそりとそこにある。
がさがさと植物を踏む音がして、
鎖師が教会にやってきた。
金属の鎖を身体に引っ掛けて、
いつものように表情は薄い。
「手入れしないのが、ここらしいわね」
鎖師はつぶやく。
そして、壊れた扉から、教会の中に入る。
中も雑草がそこかしこにあり、
椅子は役目を果たしていない。
鎖師は真ん中まで進むと、
その目で十字架を見つめた。
「その教えは縛めになりませんでしたか」
鎖師は問いかけるようにつぶやく。
「重い重い縛めになりませんでしたか」
鎖師はわかっている。
重い縛めになっても、
教えに束縛と見られていても、
そのために、この教会の十字架はあった。
教えに殉ずるとか、言えば簡単かもしれない。
でも、多分、そこには愛もあった。
最も重い鎖のような感情。
何かに向けての愛。
全てに向けての愛。
重い重い縛めのような、鎖のような、愛。
十字架はそれを背負った。
世界中の愛を背負った。
鎖を扱う鎖師にも出来ないことだ。
重い重い縛めだとしても。
脱ぎ捨てることなく鎖を背負ったもの。
一言で言い表せない、
教えを実行するということ。
「真似できないね」
鎖師は真似できない。
だから教えは今でも残る。
無宗教に近い斜陽街に、
イメージとしての教会が残っている。
全てを受け入れてくれる場所として、
懺悔の場所として残る。
鎖師も例に漏れず無宗教だ。
でも、この場所は好きだ。
誰にも強制されず、
祈ってもいいのだと、
うっすら残る十字架が受け入れてくれる気がする。
それは腐っていない場所だ。
鎖師か腐って死ぬ属性を発動させてしまっても、
ここは腐らないような、そんな気がした。
縛めを、教えを、鎖のように背負ったもの。
鎖師は十字架にかけられたその像がなくても、
イメージとして教えが繋がっていくような気がした。
誰も世界中を愛することは出来ない。
でも、世界中を愛するというイメージならここに残っている。
鎖師はそう感じた。
「ありがとう」
鎖師は中空に言葉を放つと、
教会をあとにした。