これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
タケダはコンビニの陳列棚をいじる。
このところ地震が多くて、
重みのないお菓子の棚がふらふらしている。
大地震がない限りこれでいいかと思いながら、
タケダはお菓子をそろえていく。
「きっちりしないとね」
タケダは整頓の出来に満足する。
うんうんと一人でうなずく。
お客はいない。
昼近くにもなればお弁当のお客が増える。
タケダは掃除をする。
やるべきことが山のように。
それはみんな地域に結びついている。
「うーん、地域密着」
タケダはちょっぴり自分に酔う。
酔ったあと、はっと店を見渡す。
誰もいない。
タケダは一人でなんだか恥ずかしい気分になった。
電話のベルが鳴る。
「あれあれ電話だ」
タケダは店の中の電話を取る。
「もしもし」
「ああよかった、繋がったか」
「もしもし?」
「そのまま聞いてくれ、その町は現在地震が多いはずだ」
「あ、はいはい」
確かに地震が多い。
本部からの地震対策の電話だろうか。
「地下には怪獣の卵が埋まっている」
「はいは…はい?」
タケダは聞き流そうとして声がひっくり返る。
「怪獣の卵がうごめいている」
「どういうことですか」
「卵が動くことにより、地震が起きている」
相手はタケダの声を聞いていない。
一方的に続ける。
「卵がかえれば、そこは壊滅してしまうだろう」
「そんな」
「卵のことは機密情報だ、一般人に流してはいけない」
「ならなんでこんなところに電話を」
「うん?」
相手が違和感に気がついたらしい。
「ここはコンビニですよ。どこから電話してるんですか」
「コンビニ?」
「いたずら電話ですか?切りますよ」
「そこは対策本部じゃないのか?」
「何の対策ですか?ここはコンビニですよ」
「では君は一般人か」
「一般人です。怪獣とかなんとか、一体何が起きているんですか」
タケダは半ばあきれて電話を切ろうとする。
「待て」
相手から声が入り、タケダは受話器を持つ。
「怪獣の卵は機密情報だ」
「そんなことを言ってましたね」
「いたずらに広げて混乱させてはいけない」
「本当なんですか、その情報」
「この電話を切ったら地震が起きる」
それを最後にプツリと電話が切れた。
直後に地震。
震度3程度。
タケダは戦慄した。
本当なんだ。