斜陽街一番街、バー。
今日は妄想屋の夜羽と、バーのマスターがいる。
バーでたまに水を飲んでいるシキは、
本を持ってどこかに行っている。
有線の流れる、静かな店内だ。
カランカラン。
店の扉のベルがなる。
「おう」
入ってきたのは酒屋の店主だ。
インヤンマークのTシャツにジーンズ、
黒の釣鐘マントを羽織っている。
肩にはいつも大きなディバッグ。
その中に酒が入っているらしい。
「酒、おろしにきたで」
酒屋の店主がマスターに声をかける。
マスターがうなずいて、
カウンターの下からメモを取り出す。
おろしてもらう酒のリストだ。
「ふんふん…」
うなずきながら、酒屋の店主は、
ディバッグからひょいひょいと酒を取り出す。
何本入っているのかは不明だが、
重そうなそぶりはしていなかった。
「…っと、これで全部やな」
カウンター席に酒が並ぶ。
どれも新品のぴかぴかだ。
マスターは礼をすると、一本一本丁寧にしまい始めた。
「酒も本望やな」
酒屋はその様子をうれしそうに眺める。
「酒を愛するところにおろされて、酒も本望や」
酒屋の店主は、うんうんと一人でうなずいた。
「夜羽」
酒屋の店主が、夜羽に目線をうつす。
「何か?」
「少し飲めるか?」
「ええ、構いませんよ」
酒屋の店主は夜羽のボックス席にやってくる。
席に着くとディバッグから酒を取り出す。
「弟子に作ってもらったものや」
「お弟子さんが」
「味見てもらおうと思ってな」
「どれ、いただきます」
夜羽は自分のグラスに酒を注いで一口飲む。
ふわふわ広がる楽しいけれど悲しい感覚。
そして残る寂しさ。
ここの酒屋は建物から酒を作るらしいことを思い出す。
「どこかの廃墟ですね」
夜羽は感じたことを口にする。
「廃墟になってかなり経っている感じですね」
「やっぱりそうなるかぁ」
酒屋の店主も酒を飲む。
「楽しさの影がもう少し濃くなればええかな思うたけど」
「悪くない味ですよ」
「雑味が少しまじっとる。誰かおったな、これは」
「誰でしょうね」
夜羽は楽しそうに、もう一口を飲んだ。
雑味だろうか。
少し鋭い日本酒のような風味がした。
「これはどこのお酒ですか?」
「遊園地や…っていってたけどなぁ」
「遊園地ですか」
遊園地で鋭さを出せるとしたら誰だろう。
夜羽は勝手に考える。
「ま、のめのめ」
酒屋の店主が酒を注ぐ。
夜羽はありがたくいただいた。