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第385話 旅行

斜陽街一番街、病気屋。

ペアチケットをもらった熱屋と病気屋は、

旅行の準備をしていた。

もともと、客なんてそんなに来ない。

ならば行ける時に行ってしまおう。

病気屋は押入れをごそごそして、

旅行用に使えそうな鞄を探す。

医者みたいな鞄ならたくさん出てくるが、

旅行用に使えそうなのは、なかなかでてこない。

奥まで探すと、ボストンバッグが一つ出てきた。

割と大きい。

「これでいいか」

埃を払う。

盛大にくしゃみを一つ。

「さて、あとは着替えか」

白衣なら何着もある。

清潔に保つためでもある。

でも、旅行となると白衣ではだめだろう。

カジュアルとまでは行かないにしても、

何か白衣でないもの…寝巻きくらいしかないかもしれない。

昔の服があるだろうか。

病気屋は奥の部屋で、たんすと格闘する。


「病気屋さん」

入り口で声がする。

熱屋の声だ。

「あー、入っていいよ」

病気屋は顔だけ向けると、熱屋を促した。

熱屋が店に入ってくる。

いつものシャツとジーンズの姿。

旅行だからと着飾るわけでもないらしい。

病気屋は自分が滑稽に思えてきた。

いつもの自分でいいじゃないか。

…でも、白衣で旅行はないよなぁ…

「荷物?」

熱屋が尋ねる。

「うん、白衣じゃまずいなと思って」

「どこに行くかにもよるじゃない」

「そうだけど」

「チケット見せて」

熱屋が言うので病気屋はチケットを取り出す。

熱屋はチケットをまじまじと見る。

「扉屋の扉から行くから、移動はそんなにないみたいよ」

「でもなぁ…」

「宿もコミみたいだし、気にすることないんじゃないかな」

「うーん」

病気屋はもっさりと着替えを見る。

全部白衣だ。

そうでなければ寝巻きだ。

あとは下着とか靴下とか。

「わたしは、白衣の病気屋さんが好きだけど」

熱屋はうつろにポツリとつぶやく。

病気屋は取り出しかけた靴下を落とす。

熱屋はそれに気がつかない。

「せっかくの旅行だもん、肩肘張らなくていいと思う」

「そう、かな」

「白衣の病気屋さんが、らしいと思う」

相変わらず熱屋は気がついていない。

病気屋は靴下をまとめたりばらしたりしている。

「荷物早くまとめようよ」

「あ、そうだな、はいはい」

病気屋は荷物をまとめだす。


白衣でもいいじゃないか。

かざらずの旅行でいいじゃないか。

病気屋は自然に笑みになった。

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