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第388話 潮騒

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


魚影がうつる屋外プール。

調査結果はもやもやしている。

海になっているとかなってないとか。

そんなこと言われても、

タイムをはじくために練習は出来ない。

入っても危険かもしれない。

水泳部はぼんやりプールを眺めている。

顧問は町内のプールに掛け合いに行っている。

水泳部員はプールサイドでプールを見ている。

波が立つ。

何があってこんなことになったんだろう。


「なんかさー」

「うん?」

「俺たちの知らないところで何かあるのかもな」

「かもなぁ」

水泳部員がぼんやり会話する。

「なんかさー」

「うん?」

「俺たち政治とかわかんないだろ」

「公民でやった程度だしな」

「もっとわかんないものが働いてるのかもな」

「そうかもなぁ」

「とにかくここでは泳げないわけだ」

「だなぁ」

水泳部員はため息をついた。

魚影が見える。

「釣りでもするか?」

「道具ないだろ」

「面白そうだと思ったんだけどなぁ」

水泳部員は空を見上げた。

時間はずいぶん経った。

それでもプールはプールに戻らない。

ざわざわざわめいている。

潮の匂いはそのままに、次の変化を迎えている。

「…潮騒?」

「なんだそれ」

「みちひきのときに起きる海のうなり…らしい」

「それまで起きてるって?このプールで?」

「本格的に海だよ、どうするよおい」

「どうするってどうするよ」

「しらねーよ」


呆然とする水泳部員のもとに、

やがて顧問がやってくる。

町内のプールを使わせてもらうことになったらしい。

そして、このプールは町の管轄になりそうだという話だ。

「どうなるかはわからないけどな」

顧問はそう結ぶ。

「まぁ、今のところ泳ぐなということだな」

「そうだよなぁ」

水泳部員も納得する。

魚影の中ではタイムも出せまい。


「でも、先生」

「うん?」

「ちょっと見に来るのはいいですか?」

「入るなよ」

「見るだけです」

「ならいいだろう。でも、役場の邪魔はするなよ」

「はーい」

水泳部員が答える。

正直、慣れ親しんだこのプールが、

変わっていくことに戸惑っている。

みちひきまで起きる、次はどうなる。

楽しみなような気もするし、残念な気もする。

複雑な思いを胸に、

水泳部員たちはプールサイドをあとにした。

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