これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
魚影がうつる屋外プール。
調査結果はもやもやしている。
海になっているとかなってないとか。
そんなこと言われても、
タイムをはじくために練習は出来ない。
入っても危険かもしれない。
水泳部はぼんやりプールを眺めている。
顧問は町内のプールに掛け合いに行っている。
水泳部員はプールサイドでプールを見ている。
波が立つ。
何があってこんなことになったんだろう。
「なんかさー」
「うん?」
「俺たちの知らないところで何かあるのかもな」
「かもなぁ」
水泳部員がぼんやり会話する。
「なんかさー」
「うん?」
「俺たち政治とかわかんないだろ」
「公民でやった程度だしな」
「もっとわかんないものが働いてるのかもな」
「そうかもなぁ」
「とにかくここでは泳げないわけだ」
「だなぁ」
水泳部員はため息をついた。
魚影が見える。
「釣りでもするか?」
「道具ないだろ」
「面白そうだと思ったんだけどなぁ」
水泳部員は空を見上げた。
時間はずいぶん経った。
それでもプールはプールに戻らない。
ざわざわざわめいている。
潮の匂いはそのままに、次の変化を迎えている。
「…潮騒?」
「なんだそれ」
「みちひきのときに起きる海のうなり…らしい」
「それまで起きてるって?このプールで?」
「本格的に海だよ、どうするよおい」
「どうするってどうするよ」
「しらねーよ」
呆然とする水泳部員のもとに、
やがて顧問がやってくる。
町内のプールを使わせてもらうことになったらしい。
そして、このプールは町の管轄になりそうだという話だ。
「どうなるかはわからないけどな」
顧問はそう結ぶ。
「まぁ、今のところ泳ぐなということだな」
「そうだよなぁ」
水泳部員も納得する。
魚影の中ではタイムも出せまい。
「でも、先生」
「うん?」
「ちょっと見に来るのはいいですか?」
「入るなよ」
「見るだけです」
「ならいいだろう。でも、役場の邪魔はするなよ」
「はーい」
水泳部員が答える。
正直、慣れ親しんだこのプールが、
変わっていくことに戸惑っている。
みちひきまで起きる、次はどうなる。
楽しみなような気もするし、残念な気もする。
複雑な思いを胸に、
水泳部員たちはプールサイドをあとにした。