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第389話 窓

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


カモメ、アオイ、アカネの三人娘は、

見慣れない本屋をうろつく。

「店員はいるのかな」

カモメがつぶやく。

「そうだねぇ、本が売り物ならばいるのかも」

アオイが答える。

アカネがきょろきょろする。

「あの人かな」

アカネが指差す。

そこには女性が一人いた。

窓が開いていて、その近くにレジがある。

レジ近くにたたずむ女性だ。

多分店員だろう。


「なんて声かける?」

カモメがたずねる。

「ここは何なんですかって?」

アオイが答える。

「すみませーん」

アカネが無視して声をかける。

カモメとアオイはわたわたする。

女性は三人娘に気がついた。

「なに、か?」

ぼんやりとした声が返ってくる。

「ここは何なんですか?」

アカネは物怖じせずにたずねる。

「ここは本屋ですよ」

女性は答える。

「見たことのない本ばかりですけど」

カモメが割って入る。

こうなりゃ勢いだ。

「見たことない?そうでしょうね」

女性は答える。

「本はどこかからやってくるの」

女性はぼんやりと答えた。

外ではうっすらと雨が降っている。

窓がそれを伝えている。


「本はね、通り雨が降ると増えているの」

女性はぼんやりとつぶやく。

三人娘には伝わっていない。

「どういうことですか?」

アオイがたずねる。

「そのままの意味。通り雨が降るとね、本が増えているの」

「知らないうちに増えてるってことですか?」

「そういうことよ」

女性は何事もないように答える。

三人娘は顔を見合わせた。

「どういうことよ」

「わかんないよ」

口々に疑問を言い合う三人娘に、女性が声をかけた。

「もう増えているはず。今通り雨が過ぎていったから」

「え?」

「わからないかもしれないけど、増えてるわよ」

窓の外では雨がやんでいるらしい。

雨音は聞こえない。

「窓が本を伝えてくるの。私にはわからないどこかから」

女性はぼんやりとつぶやく。

三人娘は頭の中が混乱した。

「あたしたちが、おかしいのかな」

「そんなことないと思うけど」

「それじゃ、理解できないのってどうよ」

「わかんないよ」

口々に疑問を言い合う。

レジの女性はぼんやりと微笑んだ。

「そういう現象なのよ。雨と窓と本、そういう現象」


レジの女性は微笑んだ。

三人娘はにわかには理解できなかった。

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