これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
カモメ、アオイ、アカネの三人娘は、
見慣れない本屋をうろつく。
「店員はいるのかな」
カモメがつぶやく。
「そうだねぇ、本が売り物ならばいるのかも」
アオイが答える。
アカネがきょろきょろする。
「あの人かな」
アカネが指差す。
そこには女性が一人いた。
窓が開いていて、その近くにレジがある。
レジ近くにたたずむ女性だ。
多分店員だろう。
「なんて声かける?」
カモメがたずねる。
「ここは何なんですかって?」
アオイが答える。
「すみませーん」
アカネが無視して声をかける。
カモメとアオイはわたわたする。
女性は三人娘に気がついた。
「なに、か?」
ぼんやりとした声が返ってくる。
「ここは何なんですか?」
アカネは物怖じせずにたずねる。
「ここは本屋ですよ」
女性は答える。
「見たことのない本ばかりですけど」
カモメが割って入る。
こうなりゃ勢いだ。
「見たことない?そうでしょうね」
女性は答える。
「本はどこかからやってくるの」
女性はぼんやりと答えた。
外ではうっすらと雨が降っている。
窓がそれを伝えている。
「本はね、通り雨が降ると増えているの」
女性はぼんやりとつぶやく。
三人娘には伝わっていない。
「どういうことですか?」
アオイがたずねる。
「そのままの意味。通り雨が降るとね、本が増えているの」
「知らないうちに増えてるってことですか?」
「そういうことよ」
女性は何事もないように答える。
三人娘は顔を見合わせた。
「どういうことよ」
「わかんないよ」
口々に疑問を言い合う三人娘に、女性が声をかけた。
「もう増えているはず。今通り雨が過ぎていったから」
「え?」
「わからないかもしれないけど、増えてるわよ」
窓の外では雨がやんでいるらしい。
雨音は聞こえない。
「窓が本を伝えてくるの。私にはわからないどこかから」
女性はぼんやりとつぶやく。
三人娘は頭の中が混乱した。
「あたしたちが、おかしいのかな」
「そんなことないと思うけど」
「それじゃ、理解できないのってどうよ」
「わかんないよ」
口々に疑問を言い合う。
レジの女性はぼんやりと微笑んだ。
「そういう現象なのよ。雨と窓と本、そういう現象」
レジの女性は微笑んだ。
三人娘はにわかには理解できなかった。