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第391話 自棄酒

斜陽街一番街、バー。

合成屋がやってきていた。

くじ箱を義手に持っているが、

くじ箱の当たりは、もうないらしい。

一仕事終えた合成屋は、

何を飲むわけだもなく、バーの止まり木にいる。

「とにかく当たりが出たんですよ」

合成屋はうれしそうにそう話す。

「当たりはなんだったんだい?」

夜羽がたずねる。

「ペアチケットですよ」

「どこへの?」

「チケットに書いてありましたけど、どこだったかな」

合成屋は考えるそぶりをする。

「わからないで渡したのかい?」

「嫌な感じがなかったんで」

「まぁいいか、合成屋の感覚は信じられるし」

「ありがとうございます」

合成屋はぺこりとお辞儀した。


カランコロン。

誰かがバーにやってきた。

「いらっしゃいませ」

無口なマスターが挨拶する。

「よぉ」

やってきたのは探偵だ。

「どうも、お仕事ですか?」

夜羽がたずねる。

「いや、一仕事斡旋して、暇してたからな」

「そうですか」

夜羽はうなずく。

探偵もうなずいて、

止まり木に止まる。

「どうもー」

合成屋が挨拶する。

「合成屋か、珍しいな」

「一仕事だったんですよ」

「合成屋が?」

「くじ箱に当たりがあって、それを引いてもらったんですよ」

「へぇ、それじゃ俺も一枚」

「もう当たりないです」

「へ?」

探偵は虚をつかれた顔になる。

「もう、当たりはないのですよ」

合成屋は繰り返す。

探偵は憮然とする。

「久しぶりに、面白そうなことを見つけると、こうだ」

「すみませんねぇ」

合成屋はぺこぺこと頭を下げる。

「いや、合成屋が悪いんじゃない」

言いながら探偵はいらいらする。

煙草を吸おうとしてやめたりする。

「酒!きついの!」

いらいらした犬がほえるように、探偵は注文する。

明らかにやけを起こしている。


「ほどほどにしたほうがいいですよぅ」

合成屋は泣きそうになりながら探偵に声をかける。

もっとも、表情はわからない。

「うるさい!」

探偵は噛み付くように一喝すると、

強い酒をがぶりと飲んだ。

「ど、どうしましょう夜羽さん」

合成屋がおろおろする。

「探偵はそんなに羽目をはずさないよ」

「でもぉ…」

「飲ませてやるといいと思う」

「自棄酒なんてよくないですよぉ」

「たまにはいいんじゃないかい?」

夜羽は口の端で笑った。

探偵はがぶがぶと酒を飲む。

果てなく飲んだ。

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