斜陽街一番街、バー。
合成屋がやってきていた。
くじ箱を義手に持っているが、
くじ箱の当たりは、もうないらしい。
一仕事終えた合成屋は、
何を飲むわけだもなく、バーの止まり木にいる。
「とにかく当たりが出たんですよ」
合成屋はうれしそうにそう話す。
「当たりはなんだったんだい?」
夜羽がたずねる。
「ペアチケットですよ」
「どこへの?」
「チケットに書いてありましたけど、どこだったかな」
合成屋は考えるそぶりをする。
「わからないで渡したのかい?」
「嫌な感じがなかったんで」
「まぁいいか、合成屋の感覚は信じられるし」
「ありがとうございます」
合成屋はぺこりとお辞儀した。
カランコロン。
誰かがバーにやってきた。
「いらっしゃいませ」
無口なマスターが挨拶する。
「よぉ」
やってきたのは探偵だ。
「どうも、お仕事ですか?」
夜羽がたずねる。
「いや、一仕事斡旋して、暇してたからな」
「そうですか」
夜羽はうなずく。
探偵もうなずいて、
止まり木に止まる。
「どうもー」
合成屋が挨拶する。
「合成屋か、珍しいな」
「一仕事だったんですよ」
「合成屋が?」
「くじ箱に当たりがあって、それを引いてもらったんですよ」
「へぇ、それじゃ俺も一枚」
「もう当たりないです」
「へ?」
探偵は虚をつかれた顔になる。
「もう、当たりはないのですよ」
合成屋は繰り返す。
探偵は憮然とする。
「久しぶりに、面白そうなことを見つけると、こうだ」
「すみませんねぇ」
合成屋はぺこぺこと頭を下げる。
「いや、合成屋が悪いんじゃない」
言いながら探偵はいらいらする。
煙草を吸おうとしてやめたりする。
「酒!きついの!」
いらいらした犬がほえるように、探偵は注文する。
明らかにやけを起こしている。
「ほどほどにしたほうがいいですよぅ」
合成屋は泣きそうになりながら探偵に声をかける。
もっとも、表情はわからない。
「うるさい!」
探偵は噛み付くように一喝すると、
強い酒をがぶりと飲んだ。
「ど、どうしましょう夜羽さん」
合成屋がおろおろする。
「探偵はそんなに羽目をはずさないよ」
「でもぉ…」
「飲ませてやるといいと思う」
「自棄酒なんてよくないですよぉ」
「たまにはいいんじゃないかい?」
夜羽は口の端で笑った。
探偵はがぶがぶと酒を飲む。
果てなく飲んだ。