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第392話 奔走

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


タケダは呆然とする。

電話が切れたら地震が起きた。

それすなわち、電話は本当だったこと。

偶然かもしれない、かもしれないけど、

とにかく、何か行動を起こさねば。

怪獣の卵が地下に埋まっていて、

怪獣がかえると、ここは壊滅状態になってしまう。

何とかこの町を守るために。


バイトがやってきたのをいいことに、

タケダは外出した。

とにかくタケダはだまっていられなかった。

町役場へ向けて自転車を走らせる。

タケダの中ではアクセル全開のような気分。

でも、自転車だ。

町役場まで走って、

受付に尋ねる。

「怪獣の卵が地下にあるんです。どこに聞けばいいですか?」

支離滅裂なことを言っている自覚は、タケダにない。

受付の女性は困惑の表情をした。

「番号の札をひいてお待ちください」

受付の女性がそれだけ言うと、

タケダは自分の頭が沸騰していたことに気がついた。

かあっと赤面する。

「あ、はい」

タケダは番号の札をひいて、待った。


「とにかく怪獣の卵を信じてくれる人を見つけないと」

タケダは待っている席でぶつぶつつぶやく。

やがて町役場の案内から呼び出しがかかる。

「今日はどのようなご相談ですか?」

案内係の女性が訪ねる。

「地震が起きている原因がわかったので、誰かに話さないとと思いまして」

さっきよりは幾分落ち着いたが、

やっぱり頭のどこかが沸騰しているのが止まらない。

案内の女性も、わけがわからないという表情をした。

タケダの中の小市民が反応する。

大それたことをするもんじゃない!

だまっていればいいじゃないか!

でも、タケダの中の正義感が叫ぶ。

今ここで行動しなければ!

怪獣の卵のことを伝えなくては!


案内の女性からは、

一枚の紙を渡された。

町役場へのご意見ご要望の紙だ。

「そうだよなぁ、そうなっちゃうよなぁ…」

タケダはタケダなりに納得しつつ、がっかりした。

一応紙に怪獣の卵のことを書いて、

案内の女性にばれないように、折りたたんで出した。

タケダは町役場をあとにした。

元気悪く自転車をこぐ。


これで終わりに…したくはない。

タケダの小さな正義感が沸騰する。

コンビニに戻ったらあちこちに電話をしよう。

対策本部にあたるかもしれない。

町が壊滅しないですむかもしれない!

「よし!」

タケダは奔走する。

沸騰した心のままに。

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