これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
タケダは呆然とする。
電話が切れたら地震が起きた。
それすなわち、電話は本当だったこと。
偶然かもしれない、かもしれないけど、
とにかく、何か行動を起こさねば。
怪獣の卵が地下に埋まっていて、
怪獣がかえると、ここは壊滅状態になってしまう。
何とかこの町を守るために。
バイトがやってきたのをいいことに、
タケダは外出した。
とにかくタケダはだまっていられなかった。
町役場へ向けて自転車を走らせる。
タケダの中ではアクセル全開のような気分。
でも、自転車だ。
町役場まで走って、
受付に尋ねる。
「怪獣の卵が地下にあるんです。どこに聞けばいいですか?」
支離滅裂なことを言っている自覚は、タケダにない。
受付の女性は困惑の表情をした。
「番号の札をひいてお待ちください」
受付の女性がそれだけ言うと、
タケダは自分の頭が沸騰していたことに気がついた。
かあっと赤面する。
「あ、はい」
タケダは番号の札をひいて、待った。
「とにかく怪獣の卵を信じてくれる人を見つけないと」
タケダは待っている席でぶつぶつつぶやく。
やがて町役場の案内から呼び出しがかかる。
「今日はどのようなご相談ですか?」
案内係の女性が訪ねる。
「地震が起きている原因がわかったので、誰かに話さないとと思いまして」
さっきよりは幾分落ち着いたが、
やっぱり頭のどこかが沸騰しているのが止まらない。
案内の女性も、わけがわからないという表情をした。
タケダの中の小市民が反応する。
大それたことをするもんじゃない!
だまっていればいいじゃないか!
でも、タケダの中の正義感が叫ぶ。
今ここで行動しなければ!
怪獣の卵のことを伝えなくては!
案内の女性からは、
一枚の紙を渡された。
町役場へのご意見ご要望の紙だ。
「そうだよなぁ、そうなっちゃうよなぁ…」
タケダはタケダなりに納得しつつ、がっかりした。
一応紙に怪獣の卵のことを書いて、
案内の女性にばれないように、折りたたんで出した。
タケダは町役場をあとにした。
元気悪く自転車をこぐ。
これで終わりに…したくはない。
タケダの小さな正義感が沸騰する。
コンビニに戻ったらあちこちに電話をしよう。
対策本部にあたるかもしれない。
町が壊滅しないですむかもしれない!
「よし!」
タケダは奔走する。
沸騰した心のままに。