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第393話 轟音

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


ヒビキとワタルは、カタナと名乗る侍と対峙する。

ヒビキもワタルも場数はこなしてきたつもりだ。

能力を使って、さまざまな人と戦った。

それでも思う。

こいつは強いと。

カタナは不敵に微笑んでいる。

戦いに餓えていたのもあるだろうし、

斬りたいというのも、あるのかもしれない。

弦が張られるようにピンとした緊張。

ヒビキとワタルに、楽しむ余裕は正直ない。

勝つか負けるかではない。

生きるか死ぬかをカタナは求めている。

「つえぇな」

ヒビキがつぶやく。

「あいつは強い」

ワタルが返す。


遊園地は彼らの能力であちこちえぐられた。

それでも形を保っている遊具が、

ぼんやりと浮かんでいるように、そこにある。

生きる死ぬというはっきりした境界に浮かぶ、

ぼんやりとした遊具。

それは、どこか知らない世界に連れて行くもののような気がした。

カタナが踏み込んだ。

ヒビキが能力を解放する。

ワタルがサポートに回る。

瞬間、ぐらりと地面が揺れ、轟音がする。

ワタルは立ち止まった、

ヒビキがバランスを崩す。

カタナはバックステップに切り替える。

誰の能力でもない、揺れ。

沈黙が支配する。

そしてまた、揺れ。

「なんだなんだ」

「地震か?」

ヒビキとワタルが口々に言い合う。

ワタルはカタナを見る。

狂気の笑みを浮かべている。

「あんた…」

ワタルが何か言おうとする。

何を言っていいかわからない。

「あいつだ」

カタナはにやりと笑って刀をかざした。

ヒビキとワタルがその方向を見る。


明らかに遊具ではない、巨大な何か。

「来たんだ、終わりの獣の母だ、あれは」

カタナは笑っている。

獲物を認めた顔をしている。

「つまり、あれを斬ればあんたは本望か」

ワタルが問いかける。

「上々だな」

「なら、あれを斬れば遊園地から出て行くのか」

「終わりの獣の母なら、上等だ」

ワタルが何か言おうとする。

その前にヒビキがそれをさえぎった。

「俺たちが手伝ってやる。早く斬って出て行け」

驚くワタルに、にんまり笑ったヒビキが声をかける。

「…だろ?」

ワタルはうなずいた。


「あいつは卵を守りに出てきたんだ」

カタナがつぶやく。

「卵の中身より、現時点では、強い」

カタナはにやりと笑う。

ワタルはため息をつく。

ヒビキはうずうずとする。


戦闘開始だ。

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