これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
ヒビキとワタルは、カタナと名乗る侍と対峙する。
ヒビキもワタルも場数はこなしてきたつもりだ。
能力を使って、さまざまな人と戦った。
それでも思う。
こいつは強いと。
カタナは不敵に微笑んでいる。
戦いに餓えていたのもあるだろうし、
斬りたいというのも、あるのかもしれない。
弦が張られるようにピンとした緊張。
ヒビキとワタルに、楽しむ余裕は正直ない。
勝つか負けるかではない。
生きるか死ぬかをカタナは求めている。
「つえぇな」
ヒビキがつぶやく。
「あいつは強い」
ワタルが返す。
遊園地は彼らの能力であちこちえぐられた。
それでも形を保っている遊具が、
ぼんやりと浮かんでいるように、そこにある。
生きる死ぬというはっきりした境界に浮かぶ、
ぼんやりとした遊具。
それは、どこか知らない世界に連れて行くもののような気がした。
カタナが踏み込んだ。
ヒビキが能力を解放する。
ワタルがサポートに回る。
瞬間、ぐらりと地面が揺れ、轟音がする。
ワタルは立ち止まった、
ヒビキがバランスを崩す。
カタナはバックステップに切り替える。
誰の能力でもない、揺れ。
沈黙が支配する。
そしてまた、揺れ。
「なんだなんだ」
「地震か?」
ヒビキとワタルが口々に言い合う。
ワタルはカタナを見る。
狂気の笑みを浮かべている。
「あんた…」
ワタルが何か言おうとする。
何を言っていいかわからない。
「あいつだ」
カタナはにやりと笑って刀をかざした。
ヒビキとワタルがその方向を見る。
明らかに遊具ではない、巨大な何か。
「来たんだ、終わりの獣の母だ、あれは」
カタナは笑っている。
獲物を認めた顔をしている。
「つまり、あれを斬ればあんたは本望か」
ワタルが問いかける。
「上々だな」
「なら、あれを斬れば遊園地から出て行くのか」
「終わりの獣の母なら、上等だ」
ワタルが何か言おうとする。
その前にヒビキがそれをさえぎった。
「俺たちが手伝ってやる。早く斬って出て行け」
驚くワタルに、にんまり笑ったヒビキが声をかける。
「…だろ?」
ワタルはうなずいた。
「あいつは卵を守りに出てきたんだ」
カタナがつぶやく。
「卵の中身より、現時点では、強い」
カタナはにやりと笑う。
ワタルはため息をつく。
ヒビキはうずうずとする。
戦闘開始だ。