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第394話 金属音

斜陽街二番街、占い屋。

ここはいくつもに区切られた部屋で、

さまざまの占い師が占いをしてくれる店だ。

店内はオリエンタルな香が焚かれていて、

カーテンと厚めの板で、部屋は区切られている。

音がもれる心配はないらしい。

うっすらと店内はけぶったようになっている。

霧の中のような、煙にまかれたような。

たくさんの占い師が運命を伝えるのを待っている。

ここはそういう店だ。


占い屋をまとめているのは、

通称占い屋のマダムだ。

マダム・クイーンビーとも言われ、

変わった人を麻痺させて集めてしまうという困った癖を持っている。

最近はあまり聞かないが、

命からがら逃げ出した話は、

斜陽街のあちこちで聞ける。


マダムが使うのは、針金だ。

筮竹のように針金を使って、運命を占う。

金属音がちりちりとなる。

マダムにしか見えない何かで、

マダムは運命を占う。

変わった卦が出ると集めてしまうこともあるけれども、

マダムはいたって真剣だ。


「あら」

マダムは針金占いをしていて、違和感に気がついた。

何か別の音が混じっている。

針金だけの音色ではない。

色が混じっているような感じだ。

マダムはしばし考える。

鳥篭屋が音屋で音色を取ってもらったとか言う、そんな話がなかったか。

「ちょっと音屋に行ってくるわ」

マダムはそう言い残して、斜陽街へと出て行った。


音屋は斜陽街一番街にある。

ガラスの扉を開けると、あふれ出る有機的なまでの音音音!

マダムは静かに中に入って扉を閉めた。

血液がめぐるように、音屋には音がめぐっている。

マダムは迷うことなく、音屋のカウンターへとやってきた。

会話用のホワイトボードを手にする。

『こんにちは』

音屋の主人も気がついた。

『御用ですか?』

『針金に音がついたようなの、はがしてくれるかしら』

書いて、マダムは針金を音屋に差し出す。

音屋の主人は瓶底眼鏡の下で目をしぱしぱとさせた。

音屋は針金を回す。

音屋でなければ針金の澄んだ音がするように。

そして、何かをつまんだような動作をする。

音屋の主人は、針金をマダムに返す。

そして、ホワイトボードを手にする。

『相性のいい音同士が引かれあってこの音色になったようです』

ホワイトボードを消し、続ける。

『混じった音は、斜陽街に放しておきました。針金にはコーティングを施しました』

マダムはうなずいた。

そして、

『ありがとう』

と、ホワイトボードに書き残して、音屋をあとにした。

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