斜陽街二番街、ペットショップ跡地。
レンタルビデオ屋の店主が来ていた。
レンタルビデオ屋はホラーしか置けない。
お客におすすめを閃けるのが、
ホラー物しかないのだ。
でも、レンタルビデオ屋の店主は怖いものが大の苦手だ。
ビデオ屋DVDに触れると、どんな内容なのかが一瞬で流れ込んできて、
ある程度を把握することが出来る。
それが出来るのが、ホラーないしは恐怖物だけなのだ。
レンタルビデオ屋の店主は、
ペットショップ跡地にぼんやり立っていた。
まだ建物はある。
シャッターが下りている。
ペットショップだとわかる人は少ないだろうが、
ここでは昔怖いことがあったと、
レンタルビデオ屋の感覚が伝えている。
怖いのは大の苦手だけれども、
閃きがそれにしか生かせないのはしんどい。
漠然となんだか怖い。
この建物の記憶の、端々が怖い。
レンタルビデオ屋の店主は、
建物を読むことにしてみた。
酒屋のように形に出来るわけではないが、
恐怖の原因がわかれば、
ちょっとは形ない恐怖から逃れられるかもしれないと思った。
レンタルビデオ屋はかがむ。
そして、シャッターに手を当てる。
ペットショップ跡地の冷たいシャッター。
何もかもが、もうないとされる跡地。
恐怖のかけらが残っている。
レンタルビデオ屋はそれを敏感に感じ取ってしまう。
ブリキの缶を感じる。
片目が死んだ魚のような男。
なぜブリキの缶なのだろう。
レンタルビデオ屋は深入りしようとする。
ペットショップ跡地の記憶から、
男が口の両端をキュウッと吊り上げて笑う。
危険!
レンタルビデオ屋は恐怖した。
ブリキの缶にされてしまうと直感で思った。
「ビデオ屋さん!」
レンタルビデオ屋は、声で、斜陽街に帰ってきた。
声をかけてくれたのは、花術師のおばあさんだ。
「どうしたの、こんなところで」
花術師の問いに、
レンタルビデオ屋は頭を振る。
「ここはちょっとよくない場所、噂は聞いてるでしょ?」
「恐怖が端々に残っていたので…」
「あらあら、恐怖を貸すのがお仕事だから?」
「それもありますけど」
レンタルビデオ屋はもぐもぐとする。
なんと説明していいかわからない。
「だめよ、記憶に引きずられたら戻って来れないんだから」
「そういうものですか?」
「みんなブリキの缶詰にされたって噂よ」
レンタルビデオ屋は恐怖する。
あれは犠牲者だったのかと。