目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第396話 端々

斜陽街二番街、ペットショップ跡地。

レンタルビデオ屋の店主が来ていた。

レンタルビデオ屋はホラーしか置けない。

お客におすすめを閃けるのが、

ホラー物しかないのだ。

でも、レンタルビデオ屋の店主は怖いものが大の苦手だ。

ビデオ屋DVDに触れると、どんな内容なのかが一瞬で流れ込んできて、

ある程度を把握することが出来る。

それが出来るのが、ホラーないしは恐怖物だけなのだ。


レンタルビデオ屋の店主は、

ペットショップ跡地にぼんやり立っていた。

まだ建物はある。

シャッターが下りている。

ペットショップだとわかる人は少ないだろうが、

ここでは昔怖いことがあったと、

レンタルビデオ屋の感覚が伝えている。

怖いのは大の苦手だけれども、

閃きがそれにしか生かせないのはしんどい。

漠然となんだか怖い。

この建物の記憶の、端々が怖い。


レンタルビデオ屋の店主は、

建物を読むことにしてみた。

酒屋のように形に出来るわけではないが、

恐怖の原因がわかれば、

ちょっとは形ない恐怖から逃れられるかもしれないと思った。

レンタルビデオ屋はかがむ。

そして、シャッターに手を当てる。

ペットショップ跡地の冷たいシャッター。

何もかもが、もうないとされる跡地。

恐怖のかけらが残っている。

レンタルビデオ屋はそれを敏感に感じ取ってしまう。


ブリキの缶を感じる。

片目が死んだ魚のような男。

なぜブリキの缶なのだろう。

レンタルビデオ屋は深入りしようとする。

ペットショップ跡地の記憶から、

男が口の両端をキュウッと吊り上げて笑う。

危険!

レンタルビデオ屋は恐怖した。

ブリキの缶にされてしまうと直感で思った。


「ビデオ屋さん!」

レンタルビデオ屋は、声で、斜陽街に帰ってきた。

声をかけてくれたのは、花術師のおばあさんだ。

「どうしたの、こんなところで」

花術師の問いに、

レンタルビデオ屋は頭を振る。

「ここはちょっとよくない場所、噂は聞いてるでしょ?」

「恐怖が端々に残っていたので…」

「あらあら、恐怖を貸すのがお仕事だから?」

「それもありますけど」

レンタルビデオ屋はもぐもぐとする。

なんと説明していいかわからない。

「だめよ、記憶に引きずられたら戻って来れないんだから」

「そういうものですか?」

「みんなブリキの缶詰にされたって噂よ」

レンタルビデオ屋は恐怖する。

あれは犠牲者だったのかと。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?