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第400話 求人

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


カヨのいる崖の上に、

アキは着陸する。

カヨはまじまじとアキを見つめる。

「見たことない制服だね」

「そうかもね」

「海の向こうだもんね」

「うん」

アキは微笑む。

カヨの邪気ない問いが心地いい。

「それじゃ聞いたことあるかな」

「ちょっと、記憶は薄れているけど」

「うーん、じゃあ覚えてたらでいいけど」

カヨはまじめな顔になる。

「世界一の探偵って知っているかい?」

アキは自分の記憶をフル回転させる。

見たことのある景色ない景色。

アキが飛んだ海のようにくるくる回る。

何で見たことないのまで回るんだろう。

アキの記憶がくるくる回る。


「ごめん、わかんないや」

アキは一通り記憶を回して、

カヨにそう答える。

「うん、いいんだ」

カヨも気にしていないらしい。

「風の噂を聞いたんだ。世界一の探偵がいるらしいって」

「風の噂?」

「うん、世界一の探偵がどこかにいるって」

「どんな探偵なの?」

「なんでも勘が導いてくれるんだって」

「それは世界一だね」

「そうだろう?」

カヨが邪気なく笑う。

「逢いたいんだ。その、世界一の探偵に」

「逢ってどうするの?」

「夢のありかを聞くんだ」

「夢の?」

アキはたずねる。

「僕は夢を見ない」

カヨが告げる。

「夢を見ない僕の夢が、どこかにあるはずだと思うんだ」

「眠らないの?」

「眠るけれども夢だけがないんだ」

アキは思う。

それはとても空虚なものではないだろうか。

眠れども何もないのは、

アキにはつらい気がした。


「カヨの夢はどこにあるだろうね」

「わからない、けれど、夢のありかも」

「世界一の探偵ならわかるって?」

「うん、そう思うから探しているんだ」

「求人広告とか」

「それはだめだったよ」

カヨは苦笑いする。

「われこそは世界一って言うのがいっぱいだった」

「ありゃあ」

アキは大げさに驚く。

カヨは微笑んだ。

こんなに邪気なく微笑めるのに、

この少年には夢がない。


「飛び出そう」

アキは知らずそうつぶやいていた。

「この崖を飛び出して、探偵を探そう」

「どうすればいいんだい?」

「あたしにつかまって。二人なら飛べる」

「信じていいんだね」

「信じて。飛べると」

「うん」


カヨはアキの手を握る。

二人は崖を飛び降りた。

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