斜陽街一番街、バー。
ヤケを起こした探偵が、果てなく酒を飲んでいた。
その場に居合わせた合成屋はおろおろしている。
「どうしましょう」
何度目になるかわからないどうしましょうを、
夜羽は笑って受け流す。
「つぶれたらそれでいいさ」
「でも…」
「探偵なら大丈夫だって」
「うー…」
合成屋は納得しない。
心配なのかもしれない。
やがて、探偵はカウンターで突っ伏す。
しばらく間があり、
合成屋は恐る恐る義手で探偵の頭をつつく。
反応はない。
「夜羽さん、大変ですよ」
「寝てるだけだよ」
「明らかに飲みすぎてたじゃないですか」
「探偵なら大丈夫だって」
「飲みすぎて死んでたらどうしましょう」
「あ、そうか、温度はわかりにくいんだっけ」
合成屋はこくこくとうなずく。
合成屋の義手では、細かい温度がわかりにくいのだろう。
「うーん」
探偵が顔の向きを変える。
噛み付くような険しさがなくなり、穏やかに眠っている。
「こんな感じだし、大丈夫だよ」
合成屋もようやくうなずいた。
「とりあえず自棄酒でつぶれているだけなんですね」
「そういうこと」
「探偵さんなら大丈夫なんですね」
「そういうこと」
「すっごく心配でした」
夜羽は口の端で笑った。
「合成屋さんは優しいからね」
合成屋はおろおろする。
優しいと言われ慣れていないのかもしれない。
少し間があり、
有線放送がゆっくりと店内に流れる。
合成屋が何か話題をふろうとしたそのとき、
がばりと探偵が起き上がる。
「マスター、水」
探偵は短くそういう。
噛み付くような自棄酒の気配はどこにもない。
バーのマスターが水を出してくれる。
探偵は一気にそれを飲む。
タンっと、カウンターにコップを軽く叩きつける。
そうして3秒探偵は考える。
「あのー…」
合成屋が何か言いかける。
「誰か来る」
「はい?」
「勘だ、誰か俺のところに来る」
「それで起きたんですか?」
合成屋の問いに、探偵はうなずく。
酔いのかけらはどこにもない。
凛々しくきりりとした探偵の目がある。
いつもの探偵だ。
多分、もう、仕事モードなのだ。
探偵は酒の代金を払うと、
斜陽街に出て行った。
その足取りに危なっかしいところは、どこにもない。
合成屋が見送ってつぶやく。
「大丈夫だったんですね」
「そういうこと」
夜羽が答える。
そんなバーの風景だ。