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第401話 泥酔

斜陽街一番街、バー。

ヤケを起こした探偵が、果てなく酒を飲んでいた。

その場に居合わせた合成屋はおろおろしている。

「どうしましょう」

何度目になるかわからないどうしましょうを、

夜羽は笑って受け流す。

「つぶれたらそれでいいさ」

「でも…」

「探偵なら大丈夫だって」

「うー…」

合成屋は納得しない。

心配なのかもしれない。


やがて、探偵はカウンターで突っ伏す。

しばらく間があり、

合成屋は恐る恐る義手で探偵の頭をつつく。

反応はない。

「夜羽さん、大変ですよ」

「寝てるだけだよ」

「明らかに飲みすぎてたじゃないですか」

「探偵なら大丈夫だって」

「飲みすぎて死んでたらどうしましょう」

「あ、そうか、温度はわかりにくいんだっけ」

合成屋はこくこくとうなずく。

合成屋の義手では、細かい温度がわかりにくいのだろう。

「うーん」

探偵が顔の向きを変える。

噛み付くような険しさがなくなり、穏やかに眠っている。

「こんな感じだし、大丈夫だよ」

合成屋もようやくうなずいた。

「とりあえず自棄酒でつぶれているだけなんですね」

「そういうこと」

「探偵さんなら大丈夫なんですね」

「そういうこと」

「すっごく心配でした」

夜羽は口の端で笑った。

「合成屋さんは優しいからね」

合成屋はおろおろする。

優しいと言われ慣れていないのかもしれない。


少し間があり、

有線放送がゆっくりと店内に流れる。

合成屋が何か話題をふろうとしたそのとき、

がばりと探偵が起き上がる。

「マスター、水」

探偵は短くそういう。

噛み付くような自棄酒の気配はどこにもない。

バーのマスターが水を出してくれる。

探偵は一気にそれを飲む。

タンっと、カウンターにコップを軽く叩きつける。

そうして3秒探偵は考える。

「あのー…」

合成屋が何か言いかける。

「誰か来る」

「はい?」

「勘だ、誰か俺のところに来る」

「それで起きたんですか?」

合成屋の問いに、探偵はうなずく。

酔いのかけらはどこにもない。

凛々しくきりりとした探偵の目がある。

いつもの探偵だ。

多分、もう、仕事モードなのだ。


探偵は酒の代金を払うと、

斜陽街に出て行った。

その足取りに危なっかしいところは、どこにもない。

合成屋が見送ってつぶやく。

「大丈夫だったんですね」

「そういうこと」

夜羽が答える。

そんなバーの風景だ。

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