これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
タケダはコンビニに戻ってくると、
店の奥の電話で電話をしまくった。
電話帳を頼りに、どうにかしてくれそうなところへ。
相手にしてくれないのが、ほとんどだった。
それでもタケダは電話をかけた。
どうにかなると信じて。
やがて、タケダは頼りになりそうなところをかけつくす。
もう、電話帳には当てになりそうなところはない。
タケダはため息をついた。
タケダの知らないところで、
動き出している人がいるかもしれない。
それを信じられるほど、タケダは多分おめでたくない。
どうにかしないと。
でも、タケダの中で声がする。
「どうせ徒労だろ」と。
タケダは頭を振る。
終わらせてたまるものか。
タケダは再び頭を振る。
怪獣の卵が地下にあるのなら、
穴を掘れば行き着くかもしれない。
やるべきことをやりつくしてこそ。
タケダは思い立つと、コンビニの裏の草むらに、
スコップを持ってやってきた。
「やってやるさ」
タケダは誰にともなくつぶやく。
タケダは穴を掘り出す。
「あー、バイトさんに店任せたと思ったらー」
タケダの知っている声がかかる。
タケダは泥だらけの顔を上げる。
女子高生のハナがいた。
弟も一緒だ。
「何か植えるの?」
ハナは何も知らずに問いかける。
「怪獣の卵が地下にあるんだ。それで地震が起きているんだ」
タケダは説明しようとする。
「怪獣の卵が孵ってしまうと、ここは壊滅してしまうんだ」
タケダの支離滅裂な説明を、
ハナはまじめに聞いている。
そして、答える。
「それじゃあさ、噂の街に行ってみるといいかも」
「噂の?」
「うん、学校では噂」
ハナは斜陽街という街の話をする。
扉をくぐるといけるらしい。
どの扉かも噂になっているが、
誰も行ったと言うことを聞かない。
噂の街だ。
「不思議な街らしいよ」
「不思議な?」
「そこに行けば、卵のこともどうにかしてくれるかも」
「そうか、そうか…」
徒労に終わりそうだったタケダに、新たな活路。
斜陽街、噂にでもすがりたかった。
「ダケダ、いく?」
小さなハナの弟がたずねる。
「うん、行ってみるよ」
「扉を忘れないで。そうしないと帰れなくなるらしいから」
「わかった。扉だね」
タケダはハナの言葉を胸に刻み、
噂の扉に向けて出発した。