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第403話 停戦

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


怪獣が遊園地にやってくる。

終わりの獣の母で、卵を守りに来たという。

ワタルは、にわかには信じられなかったが、

やってくる怪獣を見て、嘘ではないと知った。

「ひゃっほー!」

ヒビキが能力を解放して走る。

炎の塊だ。

ヒビキとしては、微妙な調整のいる対人相手より、

思いっきり能力をぶつけられる、

怪獣相手のほうがいいのかもしれない。

…あくまでワタルの推測だ。

ワタルは地面に能力で、氷の板を放つ。

乗り込み、スケボーの要領でスピードを上げてヒビキに追いつく。

「カタナは?」

「いるぜ、すごいスピードでかけてった」

カタナの姿が小さく見える。

ずいぶん怪獣の近くにいるらしい。

怪獣が大きいせいかもしれない。

「乗れ、とにかく近づく」

「おうよ」

ワタルはヒビキを氷の板に乗せると、

さらにスピードを上げて怪獣に近づいた。


怪獣はだんだん大きく見えてくる。

そして、がらがらごわぁっと轟音がする。

遊具を壊しているらしい。

カタナが自身の刀を振る。

傷一つつかない。

また振るう、はじかれる。

「おいカタナ、大丈夫か」

近くまでやってきたヒビキがたずねる。

氷の板からひょいと飛び降り、

怪獣の踏み付けからも逃げながらだ。

ワタルも氷の板を乗り捨てる。

思ったより怪獣は手ごわそうだ。

「苦戦してるじゃないか」

ワタルが皮肉っぽく言ってみる。

「苦戦?」

カタナが問い返す。

「傷一つつけられないんじゃ大変だろう」

「そうでもない」

ワタルはぞっとする。

何か、カタナは隠し持っていた。

それにいまさら思い当たった。


「ふんっ!」

カタナは思いっきり、自分の刀を怪獣に向けて振り下ろす。

ぴーん。

弦をはじくような音。

澄んだその音とともに、カタナの刀が色彩を変える。

鉄色の刀から、輝く刀へと。

「これほど強くないと目覚めないか」

カタナはつぶやく。

「目覚め?」

ワタルが問い返す。

ぞくぞくするその輝きが、本当のカタナの刀なのだろうか。

「久しぶりに覚醒させた。獲物をしとめるまで眠らないぞ」

「停戦してあるんだ、俺たちは斬るなよ」

「約束は守る」

「頼む」

ワタルは正直停戦をしてよかったと心の中で思っている。

この刀は、怖い。

「参るぞ!」

「おうよカタナ!」

カタナが飛び出す。

ヒビキがワタルが続いた。

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