これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
怪獣が遊園地にやってくる。
終わりの獣の母で、卵を守りに来たという。
ワタルは、にわかには信じられなかったが、
やってくる怪獣を見て、嘘ではないと知った。
「ひゃっほー!」
ヒビキが能力を解放して走る。
炎の塊だ。
ヒビキとしては、微妙な調整のいる対人相手より、
思いっきり能力をぶつけられる、
怪獣相手のほうがいいのかもしれない。
…あくまでワタルの推測だ。
ワタルは地面に能力で、氷の板を放つ。
乗り込み、スケボーの要領でスピードを上げてヒビキに追いつく。
「カタナは?」
「いるぜ、すごいスピードでかけてった」
カタナの姿が小さく見える。
ずいぶん怪獣の近くにいるらしい。
怪獣が大きいせいかもしれない。
「乗れ、とにかく近づく」
「おうよ」
ワタルはヒビキを氷の板に乗せると、
さらにスピードを上げて怪獣に近づいた。
怪獣はだんだん大きく見えてくる。
そして、がらがらごわぁっと轟音がする。
遊具を壊しているらしい。
カタナが自身の刀を振る。
傷一つつかない。
また振るう、はじかれる。
「おいカタナ、大丈夫か」
近くまでやってきたヒビキがたずねる。
氷の板からひょいと飛び降り、
怪獣の踏み付けからも逃げながらだ。
ワタルも氷の板を乗り捨てる。
思ったより怪獣は手ごわそうだ。
「苦戦してるじゃないか」
ワタルが皮肉っぽく言ってみる。
「苦戦?」
カタナが問い返す。
「傷一つつけられないんじゃ大変だろう」
「そうでもない」
ワタルはぞっとする。
何か、カタナは隠し持っていた。
それにいまさら思い当たった。
「ふんっ!」
カタナは思いっきり、自分の刀を怪獣に向けて振り下ろす。
ぴーん。
弦をはじくような音。
澄んだその音とともに、カタナの刀が色彩を変える。
鉄色の刀から、輝く刀へと。
「これほど強くないと目覚めないか」
カタナはつぶやく。
「目覚め?」
ワタルが問い返す。
ぞくぞくするその輝きが、本当のカタナの刀なのだろうか。
「久しぶりに覚醒させた。獲物をしとめるまで眠らないぞ」
「停戦してあるんだ、俺たちは斬るなよ」
「約束は守る」
「頼む」
ワタルは正直停戦をしてよかったと心の中で思っている。
この刀は、怖い。
「参るぞ!」
「おうよカタナ!」
カタナが飛び出す。
ヒビキがワタルが続いた。