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第404話 所持品

斜陽街三番街、がらくた横丁。

玩具屋はその中にある。

玩具屋はひょろりと細い中年で、

ヘビースモーカーだ。

子どもの客がいるときは吸わないが、

そうでないときはスパスパしながらおもちゃを作ったり、

修理したりしている。

おかげで店内はちょっとだけ、やにっぽい。


今は鳥篭屋が来ている。

斜陽街の噂、扉の外での噂、

鳥篭屋がぽつぽつと話してくれる。

「そういえば合成屋はどうしたんだい?」

「そろそろ帰ってくるんじゃないかな」

「なんだか、くじがどうしたとか」

「熱屋さんと病気屋さんに当たったとか聞きましたよ」

「そりゃよかったね」

「本当に」

玩具屋は微笑む。

自分が持っていたくじ箱をこんな風に利用されると、うれしい。


ガラガラと横開きの扉が開く。

入ってきたのは人形師だ。

「やぁ、いらっしゃい」

玩具屋は煙草をくわえる。

火はつけない。

「エリザベスに持ち物を持たせたいのです」

「エリザベス?新入りかな」

人形師が鞄から人形を取り出す。

ふんわりしたお嬢様のような人形が取り出される。

「へぇ、人形師さんもいい仕事してるのね」

鳥篭屋も覗き込む。

「ありがとうございます」

人形師は深々と頭を下げる。

「よしなって、あたしゃ礼を言われるのに慣れてないんだよ」

鳥篭屋がぶんぶんと顔の前で手を振る。

照れ隠しらしい。


「それで、どんな持ち物がいいか、ですね」

玩具屋が店内を物色する。

「前のように武器ではないなぁ、遊びまわるようにも見えないしな」

玩具屋は言いながら、倉庫に向かう。

玩具屋なりにエリザベスのイメージはあるらしい。

鳥篭屋はじっと、エリザベスを覗き込んでいる。

青い目をした人形。

全部が全部作り物という本物だ。

目だって見つめてはいない。

それなのに鳥篭屋は見つめられている気がする。

「鳥篭はどうだい?」

鳥篭屋はなんとなく言ってみる。

「鳥篭、ですか?」

人形師が問い返す。

「小型のなら持ってるよ。どうだい」

「どれ、持たせてみましょう」

鳥篭屋は営業用鳥籠から、小さな鳥篭を取り出す。

それは装飾華やかな洋風の鳥篭だ。

小さな小さな鳥篭は、ぴったりエリザベスに似合った。

玩具屋が倉庫から出てくる。

「いやー、イメージ通りのってないですね」

「いや、ありましたよ」

人形師が微笑む。

玩具屋がエリザベスを覗き込む。

小さな鳥篭を持ったお嬢様。

「なるほど、こりゃぴったりだ」

三者とエリザベスはにっこり微笑んだ。

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