斜陽街三番街、がらくた横丁。
玩具屋はその中にある。
玩具屋はひょろりと細い中年で、
ヘビースモーカーだ。
子どもの客がいるときは吸わないが、
そうでないときはスパスパしながらおもちゃを作ったり、
修理したりしている。
おかげで店内はちょっとだけ、やにっぽい。
今は鳥篭屋が来ている。
斜陽街の噂、扉の外での噂、
鳥篭屋がぽつぽつと話してくれる。
「そういえば合成屋はどうしたんだい?」
「そろそろ帰ってくるんじゃないかな」
「なんだか、くじがどうしたとか」
「熱屋さんと病気屋さんに当たったとか聞きましたよ」
「そりゃよかったね」
「本当に」
玩具屋は微笑む。
自分が持っていたくじ箱をこんな風に利用されると、うれしい。
ガラガラと横開きの扉が開く。
入ってきたのは人形師だ。
「やぁ、いらっしゃい」
玩具屋は煙草をくわえる。
火はつけない。
「エリザベスに持ち物を持たせたいのです」
「エリザベス?新入りかな」
人形師が鞄から人形を取り出す。
ふんわりしたお嬢様のような人形が取り出される。
「へぇ、人形師さんもいい仕事してるのね」
鳥篭屋も覗き込む。
「ありがとうございます」
人形師は深々と頭を下げる。
「よしなって、あたしゃ礼を言われるのに慣れてないんだよ」
鳥篭屋がぶんぶんと顔の前で手を振る。
照れ隠しらしい。
「それで、どんな持ち物がいいか、ですね」
玩具屋が店内を物色する。
「前のように武器ではないなぁ、遊びまわるようにも見えないしな」
玩具屋は言いながら、倉庫に向かう。
玩具屋なりにエリザベスのイメージはあるらしい。
鳥篭屋はじっと、エリザベスを覗き込んでいる。
青い目をした人形。
全部が全部作り物という本物だ。
目だって見つめてはいない。
それなのに鳥篭屋は見つめられている気がする。
「鳥篭はどうだい?」
鳥篭屋はなんとなく言ってみる。
「鳥篭、ですか?」
人形師が問い返す。
「小型のなら持ってるよ。どうだい」
「どれ、持たせてみましょう」
鳥篭屋は営業用鳥籠から、小さな鳥篭を取り出す。
それは装飾華やかな洋風の鳥篭だ。
小さな小さな鳥篭は、ぴったりエリザベスに似合った。
玩具屋が倉庫から出てくる。
「いやー、イメージ通りのってないですね」
「いや、ありましたよ」
人形師が微笑む。
玩具屋がエリザベスを覗き込む。
小さな鳥篭を持ったお嬢様。
「なるほど、こりゃぴったりだ」
三者とエリザベスはにっこり微笑んだ。