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第409話 水溜

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


カモメ、アオイ、アカネは、しばらくぼんやりとしていた。

「もう行こうか?」

カモメがつぶやく。

アオイがうなずく。

「あれ、これかな」

アカネがレジ脇で何かに気がつく。

「なに?」

「学園祭だってさ」

「どれどれ」

三人娘はレジ脇に置かれたチラシを見る。

先ほどレジの女性が言っていた母校の、

学園祭のチラシだ。

いつからあったのだろう。

わからないが、チラシはちゃんとある。

「あなたも体感、海プール?」

アオイが読み上げる。

「コンクリートノスタルジア?」

「学校が、古いコンクリートだって言うよね」

「ノスタルジアってことは、相当古いんだろうね」

「行ってみようか」

「そうだね、海プールってのも気になるし」

三人娘は本屋の部屋を出る。

廊下を歩いて、エレベーターで下りる。

このビルも大概古臭い。

エレベーターが動いているのが奇跡に見えるビルだ。

人影は誰もいない。

いないのに、過去に存在していた痕跡が、

何かしら残っているような気がする。

この町はそういう古いものが残されている町なのだろう。

古い本、古い思い出、古い人影。

古いものが、気がつくと立ち上がっている町なのかもしれない。

「不思議な本屋だったね」

アカネがつぶやく。

「これからも本がやってくるんだろうな」

アオイが答える。

「雨も上がったみたいだし、学園祭に行ってみようか」

「どの辺の位置かな」

「近いと思うよ」

「わかんなくてもいいさ」

「うん、いいのいいの」

三人娘はエレベーターを降り、

ビルを後にする。

ビルを出た途端、日差しを感じる。

歩くと、ぱちゃりと水溜りを感じた。

「通り雨があったんだね」

わかっていることを誰かがつぶやく。

いずれ乾く水溜り。

三人娘は水溜りを踏む。

ゆらゆらと水面が揺らいで、

また、像を結ぶ。

「通り雨があると、本がやってくる」

「うん」

「そんな場所、検索しても出るわけないよね」

「そうだね」

カモメは伸びをする。

アオイは頭をかく。

アカネは歩き出す。

「行こうよ!楽しいことが待ってるかもしれない!」

三人娘は水溜りを踏んで走り出した。

日差しをきらきらとはねかえして、

水溜りはそこにたたずんでいる。

陽炎のようにはかないもの。

きらきらした三人娘の笑顔。

彼女たちは学園祭へとかけていった。

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