これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
カモメ、アオイ、アカネは、しばらくぼんやりとしていた。
「もう行こうか?」
カモメがつぶやく。
アオイがうなずく。
「あれ、これかな」
アカネがレジ脇で何かに気がつく。
「なに?」
「学園祭だってさ」
「どれどれ」
三人娘はレジ脇に置かれたチラシを見る。
先ほどレジの女性が言っていた母校の、
学園祭のチラシだ。
いつからあったのだろう。
わからないが、チラシはちゃんとある。
「あなたも体感、海プール?」
アオイが読み上げる。
「コンクリートノスタルジア?」
「学校が、古いコンクリートだって言うよね」
「ノスタルジアってことは、相当古いんだろうね」
「行ってみようか」
「そうだね、海プールってのも気になるし」
三人娘は本屋の部屋を出る。
廊下を歩いて、エレベーターで下りる。
このビルも大概古臭い。
エレベーターが動いているのが奇跡に見えるビルだ。
人影は誰もいない。
いないのに、過去に存在していた痕跡が、
何かしら残っているような気がする。
この町はそういう古いものが残されている町なのだろう。
古い本、古い思い出、古い人影。
古いものが、気がつくと立ち上がっている町なのかもしれない。
「不思議な本屋だったね」
アカネがつぶやく。
「これからも本がやってくるんだろうな」
アオイが答える。
「雨も上がったみたいだし、学園祭に行ってみようか」
「どの辺の位置かな」
「近いと思うよ」
「わかんなくてもいいさ」
「うん、いいのいいの」
三人娘はエレベーターを降り、
ビルを後にする。
ビルを出た途端、日差しを感じる。
歩くと、ぱちゃりと水溜りを感じた。
「通り雨があったんだね」
わかっていることを誰かがつぶやく。
いずれ乾く水溜り。
三人娘は水溜りを踏む。
ゆらゆらと水面が揺らいで、
また、像を結ぶ。
「通り雨があると、本がやってくる」
「うん」
「そんな場所、検索しても出るわけないよね」
「そうだね」
カモメは伸びをする。
アオイは頭をかく。
アカネは歩き出す。
「行こうよ!楽しいことが待ってるかもしれない!」
三人娘は水溜りを踏んで走り出した。
日差しをきらきらとはねかえして、
水溜りはそこにたたずんでいる。
陽炎のようにはかないもの。
きらきらした三人娘の笑顔。
彼女たちは学園祭へとかけていった。