妄想屋夜羽からの依頼を受けて、
ヤジマとキタザワはとある扉の向こうへやってきた。
怪獣の卵なるものを運ぶためだ。
「怪獣の卵って大きいんですかね」
「さぁな、とにかく現場まで行くぞ」
地面がぐらりと揺れる。
怪獣の卵が地震を起こしているという。
ヤジマは町を見渡した。
海が近くて大きな学校がある。
大きな学校は、どうも老朽化したコンクリートのようだ。
これ以上地震が続けば、つぶれるかもしれない。
「少し急ぐか」
ヤジマはつぶやく。
「遊園地の廃墟って言う話でしたよね」
「行くか」
「はい」
ヤジマとキタザワは、遊園地の廃墟へと向かった。
遊園地は荒れ果てていた。
何か大きな力で壊したようになっていた。
「すごい廃墟ですね」
「バカ、誰かが壊したんだ、これは」
「でもすごいですね。怪獣でも来たんでしょうか」
「それもあるかもな」
ヤジマはひょいと中に入る。
「危ないですよ」
「入らないと、どうにもならないだろう」
「そうですけど…」
キタザワも遊園地の廃墟に入る。
ヤジマは廃墟の中を歩き出した。
キタザワが続いた。
「卵は守られたんでしょうか」
「地震が起きている限り、この町に卵はある」
「孵ったら大変なんでしたっけ」
「そうだな」
ヤジマは遊園地の廃墟の奥のほうに、
山になっている灰があるのを見つけた。
風に吹かれてさらさら散っているが、
それでも大きな山は崩れない。
「この下だな。最後の力で守ってる」
「掘りますか?」
「いや、その必要はない」
ヤジマは灰の山に心で語りかける。
安全な場所に連れて行くから、退いて欲しいと。
ヤジマの心で何かが笑った。
そして、灰の山は風にさらわれてなくなってしまった。
あとには、小さく輝くものが残った。
「あれが卵だ」
キタザワが卵を拾う。
鶏の卵といわれても納得するような小さな卵だ。
「最近八卦池に胎内を模した物が作られたらしい」
「そこに入れますか?」
「そうだな、そこで眠ってもらおう」
ヤジマとキタザワは帰路につく。
帰りに夜羽から聞いていたコンビニによる。
店長らしい男が店番をしていた。
ヤジマとキタザワはジュースを買い、そのついでに世間話でもするように、
「卵は預かりました。もう地震はないはずです」
と、言い残し、店を去った。
店長はびっくりしたようだが、そのあと深々と頭を下げた。
そして、斜陽街の八卦池に、卵は沈められた。
胎内に似たその空間で、
卵は今でも眠っているという。