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第418話 飛翔

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


アキは高度を下げる。

カヨの夢を狙っているという、マフィアがやってくる。

銃を持っている。

危険だ。

アキはかなり高度を下げて、

カヨの手を離した。

「斜陽街へ行くんだ!」

カヨは一度だけうなずき、扉へと向かった。

アキはマフィアの前に立ちはだかる。

「撃て!撃て!」

銃撃をアキはかわす。

「アキ!」

「早く行きなさい!ここはあたしが食い止める!」

「アキ!」

「早く!」

「また逢おうね!アキ!」

カヨはそう言うと、扉を開けてまた、扉が閉まった。

行ったのだ。


「また逢おうね、かぁ」

アキはつぶやく。

逢えるだろうか。

信じれば逢えるような気もするし、

そうでないような気もした。

「何をしている!追え!撃て!」

やけになった声がする。

アキは自分の内側から力を引きずり出す。

カヨがいては出来なかったこと、

内臓を引きずり出すような感覚、

無茶をするということ。あるいはそれ以上。

アキの周りで風が渦巻く。

それは風のようでもあり、能力の嵐のようでもあった。

「撃て!撃て!」

「撃たせない」

アキは宣言する。

マフィアの銃がぐにゃりと歪む。

「あわわ…」

下っ端のマフィアが逃げようとする。

「逃がさない、追わせない」

アキが宣言する。

この時点になってようやく、とんでもないものを敵に回したと感じたらしい。

マフィアにおびえが走る。

アキが能力を走らせる。

マフィアたちがぐにゃりと歪んで灰になった。


カヨを追うものはもういない。

アキは能力を解放したまま宙へと飛んだ。

アキは自分が溶けているのを感じる。

アキの身体から、アキが、解放されているような感じだ。

記憶がくるくると回る。

アキが経験したことないことも、くるくると回る。

カヨはきっと夢を取り戻すだろう。

それを見られないのがちょっと残念でもあった。

アキは溶けながら思う。

また逢えるかな。

記憶の奥にいる彼女や彼と、また逢えるかな。

アキは宙を飛翔する。

少しだけいたこの町を飛ぶ。

溶けかけたアキは風になる。

回る記憶。

アキという少女であったこと。

ギターの音色が聞こえる。

この音色は、いつも一緒にいたような気がする。

また逢えるよね、きっと。

約束だよ。

アキは願いながら、透き通った風に溶けた。

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