これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
アキは高度を下げる。
カヨの夢を狙っているという、マフィアがやってくる。
銃を持っている。
危険だ。
アキはかなり高度を下げて、
カヨの手を離した。
「斜陽街へ行くんだ!」
カヨは一度だけうなずき、扉へと向かった。
アキはマフィアの前に立ちはだかる。
「撃て!撃て!」
銃撃をアキはかわす。
「アキ!」
「早く行きなさい!ここはあたしが食い止める!」
「アキ!」
「早く!」
「また逢おうね!アキ!」
カヨはそう言うと、扉を開けてまた、扉が閉まった。
行ったのだ。
「また逢おうね、かぁ」
アキはつぶやく。
逢えるだろうか。
信じれば逢えるような気もするし、
そうでないような気もした。
「何をしている!追え!撃て!」
やけになった声がする。
アキは自分の内側から力を引きずり出す。
カヨがいては出来なかったこと、
内臓を引きずり出すような感覚、
無茶をするということ。あるいはそれ以上。
アキの周りで風が渦巻く。
それは風のようでもあり、能力の嵐のようでもあった。
「撃て!撃て!」
「撃たせない」
アキは宣言する。
マフィアの銃がぐにゃりと歪む。
「あわわ…」
下っ端のマフィアが逃げようとする。
「逃がさない、追わせない」
アキが宣言する。
この時点になってようやく、とんでもないものを敵に回したと感じたらしい。
マフィアにおびえが走る。
アキが能力を走らせる。
マフィアたちがぐにゃりと歪んで灰になった。
カヨを追うものはもういない。
アキは能力を解放したまま宙へと飛んだ。
アキは自分が溶けているのを感じる。
アキの身体から、アキが、解放されているような感じだ。
記憶がくるくると回る。
アキが経験したことないことも、くるくると回る。
カヨはきっと夢を取り戻すだろう。
それを見られないのがちょっと残念でもあった。
アキは溶けながら思う。
また逢えるかな。
記憶の奥にいる彼女や彼と、また逢えるかな。
アキは宙を飛翔する。
少しだけいたこの町を飛ぶ。
溶けかけたアキは風になる。
回る記憶。
アキという少女であったこと。
ギターの音色が聞こえる。
この音色は、いつも一緒にいたような気がする。
また逢えるよね、きっと。
約束だよ。
アキは願いながら、透き通った風に溶けた。