目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第427話 鬼狩

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


その世界には鬼がいる。

人に似た姿で、角が生えている。

力は強く、長寿で、

その姿は美しく、

人をたぶらかすことがある、魔性の存在だ。


その世界には戦士がいる。

鬼を狩り、人を安心させるための戦士が、

職業として存在している。

武器は、おおむねが刀。

そろいの和装で、なおかつ軽装だ。

重い武具など、鬼の前では役に立たない。

一撃か、死か。

そうやって戦士たちの装備や技術は磨かれていった。


アキはそんな戦士の中の一人だ。

アキは少女だ。

大きな、背丈ほどの剣を使う、

戦士の中では異端の存在だ。

アキは、いわゆる戦士の血筋の生まれで、

小さい頃から、鬼を狩るべしと教えられて育った。

アキに恐れはない。

アキは少女でも、立派な戦士に育っていた。


剣の腕は確かに戦士だ。

それでもアキはまだ、恋も知らない少女だ。

鬼を狩ること。

鬼を狩れなかったら、アキは死ぬ。

鬼に殺される。

鬼とはどんなものだろう。

たぶらかされるとは、どういうことだろう。

アキはまだ見ぬ鬼に、想像をめぐらせる。

美しいと聞いている。

それは、どんなものだろうか。

アキには美しいということがよくわからない。

花も刀も季節の移ろいも、

みんな同じものに見える。

特別に美しいということ、それがアキにはわからない。


アキは大きな剣を振り回しながら、

鍛錬を重ね、

鬼のことを思う。

見知らぬ鬼。

人を惑わす鬼。

みんなのために、鬼を狩らなければいけない。

アキの身がどうなろうと。

否、負けるわけにはいかない。

鬼の、その首をはねなければいけない。


みんなのため、アキ自身のため。

鬼を狩らなければ。


鬼に会いたい。

アキは思う。

どれほど強いのか。どれほど美しいのか。

まだ見ぬ鬼に、

アキは、焦がれた。

じりじりと、おそらくは胸を焦がした。

そのことにアキはまだ、気がついていない。

そんな少女、アキのお話。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?