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第428話 病体

斜陽街一番街、

そっと隣り合って営業している店がある。

病気屋と熱屋だ。

病気屋は、適度な病気を売り、

熱屋は熱をとったり与えたりする。

どちらかに、もたれかかるわけでなく、

互いに必要としているように、

ずっと斜陽街で営業している。


もっさりとした熊のような病気屋は、

少女のような熱屋と幼馴染だ。

熱屋は時が止まっている。

身体の時が止まっていて、

曖昧な年代のまま、熱屋はどこかうつろになっている。

熱屋が心から笑えるのは、

病気屋の前でだけ。

病気屋はそのことを知らない。

お互い、大切だとはわかっているけれど、

意識して態度を変えているわけではない。

空気のように自然に、

水を飲むように自然に。


斜陽街にいつものように風が吹いたとき。

病気屋は不意に、いやな予感がした。

不安がざわざわ。

ひどい病気でも来るような予感だろうかと、

病気屋は思って、違うと判断する。

こんなに不安なのは、病気ではない。

そして、思い当たるところを心に見つけると、

病気屋は一人でさっと顔を青ざめさせて、

ばたばたと隣の熱屋へと飛び出していった。


熱屋の店のドアを叩く。

返事はない。

開けようとすると鍵はかかっていない。

病気屋はいやな予感がかたちを持つのを感じる。

店に入り、熱屋の姿を探す。

思い過ごしであってくれ、

半ば祈りながら。


オレンジ色の熱のカプセルが、

そこかしこに散らばっている。

そして、奥に行こうとして、倒れこんでいる熱屋を、

病気屋は見つけた。

一瞬息をのみ、すぐさま駆け寄る。

「大丈夫か!」

「…あつい…」

熱屋はうわごとのようにつぶやく。


病気屋に記憶がフラッシュバックする。

熱屋が時間をなくした病気。

そんなことを繰り返さないために、病気を学んだのではないか。

今がそのときなのではないか。


病気やは熱屋の手を握った。

熱を扱う手は、頼りなく、明らかに病気にかかっていた。

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