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第429話 不眠

少年は探偵を探している。

世界一の探偵を。

少年は眠れない。

眠りという身体の現象はあるようだが、

夢を見ない。

少年は、夢を失っている。


眠らないこと、夢を見ないことを、

不自由だと感じたことはあまりなかった。

過去形だ。

夢が気がついたらなくなってしまっていて、

少年にとっては夢がないことが当たり前だった。

でも、少年は気がついてしまった。

みんな夢を持っていると。

心の内側に、

夢を持っていて、それでバランスが取れているのだと。


少年はそのことに気がついてしまった。

将来の夢という、

憧れと同義のことも、

少年は持っていないことに気がついてしまった。

成長するにしたがって、

日常にかえってしまう夢を、

心の内側に根ざすであろう夢を、

少年は持っていなかった。

それに気がついてしまった。


少年は、不思議な少女と空を飛んだ。

それは夢でない。

空を飛ぶ少女がいた。

少年はマフィアに追われていた。

夢でない。

あいつらは少年の夢が、邪魔らしい。

夢を手に入れなくちゃと少年は思う。


少年は扉をくぐって、

斜陽街へとやってきた。

風の噂に聞いた、

世界一の探偵がいるという街だ。


この街の探偵ならば、

少年の夢を見つけてくれるだろうか。

憧れも、ときめきも、

言葉だけ知っているいろいろなものも、

わからなくなっている様々の感情も、

全部見つけ出してくれるだろうか。

世界一の探偵ならば、あるいは。


少年は…カヨは、

改めて斜陽街という街の空気を吸った。

風の匂いがする。

その匂いは、少女を思わせた。

海の向こうから来たと、空を飛ぶ少女は言っていた。

カヨは斜陽街の空を見て、

少女の記憶をなぞる。

名前が思い出せないけれど、

夢を手に入れたら真っ先に報告しよう。


カヨは歩き出す。

斜陽街のごみごみした路地を。

世界一の探偵といわれる探偵のもとへ。

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