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第431話 晴天

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


廃墟を駆け回る三人娘がいる。

それぞれ名前を、

カモメ、アオイ、アカネ、という。

ネットワークで知り合った三人娘は、

ゲームのように現実と虚構の境目の廃墟を駆け巡る。


三人娘は、お互いのことを良く知らない。

ただ、気があって、

ただ、仲間が欲しかっただけ。

そして、ひどく似ていることを良く知っているから、

お互いの深いところまでは立ち入らない。

彼女達の深いところは、

晴天の光の届かない、

薄ぼんやりした影のようでもあった。

影を見せないように、彼女達は努めて明るくばかばかしく。

きらきら笑いながら、

廃墟を駆け回る。


彼女達は、

砂に埋もれかかっている廃墟にやってきた。

「あれ、こんなのだっけ?」

カモメが携帯端末をいじって、情報を引き出す。

アオイが覗き込む。

「情報が古いのかな」

アオイがそういうと、カモメは顔をしかめる。

「宴会場の廃墟って言うから、どんなものかと思ったけどね」

アカネはそういい、入り口を探す。


地下にものすごい宴会場の廃墟があるらしいけれども、

地上から見えるそこは、

砂に埋もれ、植物が繁茂している。

建物の姿はほとんどとどめていない。

ただ、晴天の下に、

崩れきった残骸が残っている。


アオイは空を見た。

のんきなお日様がきらきらしている。

「何にもなくなっちゃったのかな」

アオイのつぶやきに、

「結局そうなるんだよ、廃墟なんて」

カモメがそう答える。

「何にもないね」

アカネがそういう。

異論はなかった。


三人娘がたたずむ。

廃墟ですらない、崩れきった場所で。

いつか心に抱えている影も、

こうして砂のような感情に埋もれてしまうのだろうか。

お互いに言うことはなくても。

崩れきってしまう前に、

すべてが晴天のもとにさらされる前に、

何かを確かめたかった。


宴はいつか終わる。

そのことは、彼女達もよくわかるような気がした。

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