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第433話 傀儡

斜陽街三番街。

一番街から入って、がらくた横丁とは逆に向かったあたりに、

うっそうと植物が生い茂る、教会の廃墟がある。

在りし日は、ここで教えが伝えられていたのであろうか。

今は、教会だったということが、

残骸からかろうじてわかるばかりだ。

十字架が、象徴のように残っている。

十字架にかけられたであろう人物像も、

もう、あとかたもない。


かさかさと植物を踏む音がする。

誰かがやってきた。


「誰もいませんね」

やってきたのは人形師だ。

いつものように鞄を持っている、初老の男だ。

人形師は十字架を見る。

「教えの傀儡は跡形もなく」

つぶやくように、歌うように。


人形師はたたずむ。

人形を出すわけでもなく、

祈るわけでもなく、

懺悔するわけでもなく。


「所詮教えのための人形に過ぎなかった」

人形師はつぶやく。

答えるものは誰もいない。

「それでも、人形とは、人を愛するものですね」

人形師は、少しだけ微笑を浮かべる。

教えの人形といった、その存在が、

まるで人を愛することを、知っているかのように。


「傀儡に過ぎなくても、愛することを知っている」

人形師は思う。

それは、人形だけの特権だ。

人形は、人間以上に、

人間を愛している。

思いを溜め込んで、

膨れてしまうほどに不器用ではあるけれど。

人形というものは、だから愛おしいと。

人形師は思う。


「傀儡の、あなたを操っていたのは、誰ですか?」

人形師は問いかける。

答えがないことを知っていて。

でも、問わずにはいられない。

これほどの愛に満ちた教えの傀儡、

一体どうしたら、こんな人形的なものができるものか。

風が教会を吹きぬける。

人形師は微笑み、軽く一礼して、教会をあとにした。


操り人形。

傀儡。

愛することを、彼らは仕掛けで知っている。

人間のそれよりも単純で、

だからこそ、と、人形師は思う。

だからこそ、美しいと。

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