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第434話 橙色

シキは絵師を案内する。

「でな、ここが病気屋と熱屋」

シキが隣り合っているその店を示す。

絵師はうなずく。

「医者みたいなもんすか?」

「医者かぁ…そういうのはいないんだ」

「よくわかんない街っすね」

「最初はみんなそう言うさ」

絵師は首をかしげる。

そして、そのあと、何かを察知したかのように、

「なんか、気配があります」

と、少し険しい顔をしてみせる。

「なんだろ、感じるのかい?」

シキは絵師を見る。

絵師はうなずく。

「ちょっといろいろあったもんで、わかるときがあります」

シキはそういうものかと納得する。

「それで、何の気配だい?」

「過剰な橙色の気配を、感じるっす」

シキは、直感でやばいと思う。

過剰なオレンジ色だとしたら、それは、やばい。

「やばいぞ」

「やばいっすか」

「何とかしないと、まずいかもしれない」

シキが先に飛び出す。

絵師は後を追う。

シキは精一杯早く飛んでいるが、

駆け足の速度程度にしかならない。

絵師は足が速い。

すぐに追いつく。


熱屋のほうにやってきて、

シキはドアを開ける。

奥に、病気屋の背中が見える。

「邪魔するぜ」

シキが声をかける。

病気屋の返事を待たずに、

シキと絵師は奥へとずかずか踏み入る。

「…これっすか」

絵師はつぶやく。

「おい、熱屋は一体…」

シキがたずねようとしている。

そのそばで、絵師は熱屋のそばにかがんだ。

「これならいけます」

「いけるってなんだよ、あんた…」

「いけるってことっすよ」

絵師は懐から紙を取り出し、

紅色の筆を構える。

呼吸をひとつ。

そして、筆を走らせ始める。


流れるように、色を持った絵が描きあがっていく。

橙色の絵だ。

熱すら持っているのではないかと思わせる、

熱屋の絵が、描かれていく。


やがて、橙色の気配は、

絵師の絵に閉じ込められ、

熱屋の過剰な熱も、ひとまずはおさまった。

「あんたは…」

シキがたずねようとする。

「絵師っすよ」

絵師は飄々と答えた。

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