カヨは斜陽街を歩く。
ここに世界一の探偵がいるはずと。
でも、何から当たったらいいものだろう。
静かな町に風が吹き、
包み込まれているような感覚を持たせる。
カヨはとにかく町の人に声をかけることにした。
世界一の探偵なら、
きっと誰かが知っているはずと。
カヨは斜陽街の一角、
店を見つけた。
何屋かはわからないのでのぞきこむ。
瓶がたくさんある。
人はいるだろうか。
そう思って、さらに覗き込む。
「なんや?」
カヨの後ろから、なまりのある男の声。
カヨはあわてて振り返る。
「客…ともちょい違うな」
男がいる。
長めの髪を後ろで縛っていて、
黒い釣鐘マントが特徴的だ。
「俺はここの主、酒屋の主や」
男はそう自己紹介をした。
カヨは自己紹介をする。
夢がないこと、
世界一の探偵を探しに来たこと。
大体、そういうことを。
酒屋の主はその話を聞いていて、
カヨがあらかた話し終えると、
奥に向かって声をかけた。
「俺はこいつを送ってくる。店番頼むわ」
おくから、はーいと声があり、酒屋の主はうなずいた。
「ほな、いこか」
酒屋の主は飄々と歩き出す。
カヨはあわてて続いた。
「斜陽街は入り組んでてな、なれないと路地は難しいんや」
カヨはうなずく。
そして、
「本当に、世界一の探偵なんですか?」
と、問う。
酒屋の主は、ちょっとだけ苦笑いする。
「多分、な」
多分とはどういうことだろう。
カヨは重ねて問おうとする。
「多分って、何ですか」
「多分は多分。まぁ、あいつは悪いやつではないな」
「悪いやつではって…」
「腕は保障する。勘も保障する」
「ならなんで、多分?」
カヨは尋ねる。
「ほかにも世界一を名乗るのがいそうだからな」
「みんな、違ってました」
カヨはつぶやく。
酒屋の主は、微笑んだ。
「みんな、か。ならきっと、あいつが夢を探してくれるだろうよ」
「できる、人なんですか?」
「多分、な」
曖昧な酒屋の答え。
でも、カヨはそれにかけてみようと思った。
道案内はすたすたと。
カヨは酒屋の後を追った。