斜陽街番外地。
一応、何番街と区分けされていないあたり。
通りと違って、若干ごみごみしている。
いわゆる路地に面した店。
扉屋はそんなところにひっそりとある。
扉屋は、扉を作る店だ。
入り口を開けると、店の中いっぱいに扉。
様々の素材の、
数え切れない扉。
この扉一つ一つが、
別の世界をつないでいるという。
ここは斜陽街、そういうこともあると、
無数の扉に圧倒されつつ、
たいていの人は納得してしまう。
どこまでも続くような扉の群れ。
その中に、扉屋の作業場がある。
扉を作る場所。
素材はとにかく扉屋のどこかから持ってきて、
様々の技術で扉にしてしまう。
扉屋が作った扉を、誰かがつなぐ。
そうして扉は扉としてあるという。
扉屋は、今日は鑿を振るっている。
木製らしい扉を、
鑿で黙々と彫っている。
何かの彫刻の付いた扉を作るのだろうか。
皺の深い扉屋の顔が、
じっと扉を見据えている。
扉屋は、ずっと先を見ている感覚になる。
この扉の向こうの向こう。
どこか遠くに千里眼を飛ばした気持ちになる。
まだ完成していない扉、
まだつながっていない世界。
扉屋の意識は、ずっと先を見ている。
いくつ扉を作っても、多分足りない。
すべての世界とつなげても、
多分扉屋は満足しないのだろうと思う。
扉屋の千里眼は、
美しいものをとらえる。
こういったものを作りたいと、扉屋は思う。
そして、扉屋の目が戻ってくる。
鑿を振る手を止め、ため息を軽くひとつ。
悪くないなと扉屋は思う。
この扉は、つながれば、
あんなものの存在するところに出る。
それは楽園というやつだろうか。
帰ってこなくなってしまう場所だろうか。
夢のような場所。
扉屋は確かにそれを見てきた。
扉の向こうにそれがある。
だから扉屋は扉を作れる。
いくつでも、いくつでも。
扉屋はまた、もくもくと鑿を振るう。
何か花のような模様が刻まれていった。