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第441話 勝機

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


路面電車がちんちんと走っている。

カフェをかねている、この町特有のものだ。

ヒビキとワタルはその路面電車に乗って、

ピザを平らげたところだ。


「…それで」

優男のワタルは、あきれたように切り出す。

つんつん頭のヒビキは、

冷めたコーヒーをぐいっと飲んで、

気持ちよさそうに息をつく。

「うん、それで、悪い鬼をやっつけてくれって話だ」

「…またそういう仕事か」

ワタルはため息をつく。

ヒビキはにんまり笑う。

「だってよー、悪いのをやっつけるんだぜ、ヒーローだよな」

ヒーローヒーローと、ヒビキは連呼する。

ワタルはいい加減恥ずかしいが、

ヒビキのこの性格は今に始まったことではない。

ため息をつき、あきらめる。


ワタルはコーヒーを流し込み、

「それで、鬼はどこに出るんだ?」

と、話をむけてみる。

ヒビキは上機嫌だ。


カタナを相手に、

遊園地で死闘を繰り広げて以来、

この手の戦うという仕事が増えた。

ヒビキは単純にヒーローということもある。

ワタルはため息をつきながら、

物騒なヒーローになる。

能力をセーブなしで使えるのは、確かに気持ちいい。

何の因果か能力者の二人にとって、

ヒーローは適職なのかなとも思う。

職かどうかはさておいて。


「…それで」

ワタルは再び同じように聞く。

「勝機はあるんだろうな?」

いつもと同じように、勝機があるのかを聞く。

そう、いつも。

そして、いつもヒビキは答える。

「俺とお前なら、敵はいないって」

にかっと気持ちよく、ヒビキは笑う。


カタナという戦士が教えてくれたこと。

言葉ではないけれど、

勝機があるならその戦いを捨てるなと。

そして、己の力を信じろと。

なんとなく、ワタルはそんなことを教えられたような気がする。

ヒビキもそうだろうか。


「さぁ、鬼退治だ!」

ヒビキは快活に言い放った。

ワタルは軽くため息をつく。

これは心地悪いものではない。

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