ヤジマは扉の向こうへやってきた。
メモにあった、扉の向こうだ。
今頃キタザワはどうしているだろう。
時間の感覚がずれることは、よくあるけれど、
起きているなら笑っていて欲しいし、
眠っているなら、いい夢を見ていて欲しい。
いつものように頼りなく、バカやっていて欲しいと願う。
あいつはそういうのが似合う。
「やぁやぁヤジマさん」
声がかけられる。
あのときのギャングだ。
二人組みで、あの時と同じようにやってくる。
「来てくれたんですね。やっぱり」
丁寧にギャングは言うけれども、
ヤジマはその丁寧さをどこか信用できない。
「仕事は?」
ヤジマは尋ねる。率直に。
ギャングは笑った。
「この国のお話と、一緒になりますがね」
「そうそう、長くはないですけどね」
ギャングは話し出した。
この国では今、
夢が裁かれている。
違法の夢は片っ端から裁かれ、消去されている。
違法夢とは、
健全でないものだったり、ありえないものだったり、
とにかく夢法律に引っかかるもの。
夢法律自体も、この国特有であるもの。
そして、夢法律にのっとって夢を裁くのは、
夢鬼という鬼だという。
「ふぅん…違法夢。それで、何をすればいい?」
ヤジマは尋ねる。
ギャングは笑った。
「俺達ギャングは、違法夢を複製して、売っています」
「そうそう、夢を見なくなったものに、夢を与えてます」
「違法夢をコピーする間、用心棒を、と」
「そうそう、ヤジマさんならやってくれると」
ギャングはかわるがわる言う。
「用心棒」
ヤジマはつぶやく。
ふっと、脳裏にキタザワ。
あいつが夢をなくしたら、どんなに悲しむだろうか。
「…引き受けよう。夢を与える仕事だ」
多少硬い声で、ヤジマは引き受ける。
いつもの調子じゃないと、ヤジマもわかっている。
でも、引き返せないこともわかっている。
ヤジマはならず者。
ならず者、なんだと、言い聞かせる。
夢を与えたり、運んだりする仕事。
言葉だけなら、きっとキタザワが似合っている。
そんなことをヤジマは思った。