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第444話 冒険

熱屋で絵を描いて、

過剰な熱がおさまったのを確認した絵師は、

また、斜陽街を歩き出した。

空飛ぶ魚も付いてきている。

絵師はのんびり歩く。

シキもふよふよと付いてくる。


「なぁ」

シキが声をかける。

「なんすか?」

「あんたはどっから来たんだ?」

シキの問いに、絵師は考え込む。

「なんかの拍子に来たとしか、わかんないっす」

くだけ敬語で絵師は言う。

「なんかの拍子っても、いろいろあるだろ」

「うーん…」

絵師は考え込む。

糸目が困っているように見える。


絵師は、はたと何か思い出したらしい。

「冒険」

「冒険?」

シキは聞き返す。

「俺、仲間と一緒に冒険していたんすよ」

「へぇ、冒険か。どんなことしてた?」

シキは興味しんしんでたずねる。

「まぁ、冒険っすよ。いろんなことをしました」

「大冒険の話を聞かせてくれよ。面白そうだから」

「語ることはないっすよ。この街で話すものじゃないっす」

「けち」

「けちでかまいません」

絵師ははぐらかす。

でも、シキは感じる。

冒険を懐かしく思っているんだろうなと。


「あんたには仲間がいたんだね」

「ええ、気のいい仲間でした」

「過去形にするもんじゃないよ」

シキは言う。

「なんかの拍子に帰れるかもしれないじゃないか」

「帰れますかね」

「そしたらあんた、斜陽街の話を仲間にするんだよ」

絵師はくすりと笑った。

「空飛ぶ魚がいたとか、信じますかね」

「絵師のあんたの世界を知らないけどな」

「まぁいいっす」

絵師は話を切り上げる。

そして、また、斜陽街を歩き出す。

シキはついていく。

ふよふよと。


旅慣れている足だなと、

シキはなんとなく思う。

いろんなことをこの絵師は見てきて、

それを絵に起こしているのだろう。

一体どんな冒険をしてきたというのだろう。

死にかけたりはしたのだろうか。


「おい」

シキは声をかける。

「なんすか?」

「なんでもない」

「変なお魚っすね」

絵師はくすくす笑った。

何かを思い出して笑っているように思われた。

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