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第447話 真鬼

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


夢のように桜の舞う山の中を行く。

アキは少しだけぼんやりしていることを感じる。

夢、そう、夢のようだと。

修練に疲れて転寝して、

鬼に会いにいく夢を見ているのかもしれないと、思った。


違う、と、アキのさめた部分が言う。

鬼を、狩りに行くのだと。

会って、狩るのだと。

アキは瞬きをする。

その間にも桜は狂ったように咲いている。


「いたぞ!」

「鬼だ!」

「囲め!」

隊がにわかに動き出した。

アキは出遅れ、心で舌打ちした。

鬼の首をとられるかもしれない。

そんなことがあったら、アキは一生後悔する。

誰よりも先に、

鬼を…


アキは走る。

討伐隊が先を走っていって…


桜が真っ赤に染まったような、錯覚。


アキは立ち尽くす。

何が起きた?

桜も地面も、討伐隊も、みんな真っ赤だ。

その中に一人、剣を持っている、

角の生えた異形の青年。

返り血すら浴びていない、これが、鬼?

「…おに?」

アキは尋ねる。

鬼はにやりと笑った。

「鬼が珍しいかい?」

アキはうなずく。

鬼は血のにおいのする桜の下、笑う。

「俺も討伐隊に、こんなお嬢ちゃんがいるのは初めてだ」

アキはくらくらする。

夢を見ているようだ。

こんな夢を見ていてはいけないと、

アキの頭のどこかがいっている。

アキは踏みとどまる。

そして、大きな剣を構える。

「あなたに…」

アキは言葉を探す。

会いたかった。

戦いたかった。

剣を交えたかった。

どれもそうのようで、どれも違う気がする。


その首をはねたいと、アキは強烈に思った。

桜はくらくら。

その首をはねて、唇に噛み付きたいと。

なぜか強烈に思った。

狂った夢だ、

さめなくちゃと思う。


「夢じゃねぇよ」

鬼は、言う。

「真鬼のところまでよく来た。相手してやる」

鬼は、にやりと笑う。


ああ、あなたの首を狩りたい。

アキは強く思った。

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