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第448話 漢方

斜陽街三番街、がらくた横丁。

小さな店が寄り添っている、

ごみごみした横丁だ。


薬師は、この日、玩具屋を訪れていた。

薬師は薬を扱う少女。

デニムのジャンバースカートをはいていて、

ぼさぼさの髪を後ろでまとめている。

玩具屋はヘビースモーカーのひょろりとした中年。

丸い眼鏡をかけている。


「でさ、自信作ができたの」

薬師は、玩具屋のちょっとヤニ色した店ではしゃぐ。

「自信作かい?」

玩具屋はタバコの火を消す。

薬師はそれを示す。

「そう、そのタバコ」

「タバコ?」

「漢方で作ってみたのよ」

「へぇ…」

玩具屋は、気の抜けたように言う。

薬師は、ちょっと面白くないらしい。

「健康に良くて、ヤニが出なくて、被害がないんだから」

「それでもなぁ…」

玩具屋は、言葉を選んでしまう。

いいことずくめのものは、逆になんだかよくない気がする。

そんなことを薬師に言って通じるだろうか。


「これ!」

薬師は、一本のタバコを取り出す。

「…これ?」

「すってみて!」

「害は、ないんだよね」

「そうなの」

薬師はうれしそうに笑う。

玩具屋は内心やれやれと思いながら、

漢方のタバコに火をつけた。

煙を吸い、はく。


ため息ひとつ。


何かに似ているなと感じる。

これは、あれか。

「病院にいったみたいだな」

玩具屋はつぶやく。

薬師は匂いをかいで、

「そうかなぁ?」

と、首をかしげる。

「なんだかね、健康になりなさい…という施設の匂い」

「ふぅん…」

「ちょっと不健康でも、いつものタバコのほうがいいな」

玩具屋はやさしくそういう。

薬師はちょっとわからない顔をしていたが、

「そっか、健康も過ぎちゃうといけないのね」

と、それなりに納得したらしい。


「健全であることも、過ぎちゃうと逃げ場がなくなるんだよ」

玩具屋は、漢方のタバコを、

とりあえず尽くすまですう。

「うん、お薬もそうなの。なんというか、過ぎちゃいけないのね」

「そう、でも、漢方のタバコというのは…なんというか」

「なぁに?」

「眼の付け所は良かった」

玩具屋がそういうと、

薬師は、うれしそうににんまり笑った。

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