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第449話 誘

斜陽街番外地。

探偵事務所はひっそりとある。

カヨはそこまで道案内をされて、

酒屋の主は去っていった。

目の前には、探偵事務所のドア。

カヨは深呼吸をする。

世界一の探偵とは、どんなものだろう。

ドアノブに手をかけると、

「入りな」

と、男の声がする。

カヨは一瞬びっくりをする。

そして、それが世界一の探偵だからかと、

思い直して、ドアを開けた。


どれだけすごいものがあるのか、

覚悟していたカヨの前には、

ごく普通の事務所というか、

そっけない部屋があった。

ソファー、机、棚がいくつか。

奥にはまた部屋があるらしいけれど、

とにかくここが探偵事務所らしい?

カヨは事務所を見渡す。

声の主はどこだ?

思ったそのとき、

カヨの頭がぽんぽんと叩かれる。

「横にまで気をつかわないってのは、うっかりだな」

男の声は楽しんでいるようでもある。

カヨは、ぽんぽん叩いてきたその男を見る。

長身、年はまだ若いという程度。

そして、カヨでもわかるほどに探偵だと感じた。

なんでだろう?

「お察しの通り、俺が探偵だ」

探偵はにやりと笑う。

「あの、世界一の?」

カヨは尋ねる。

それが大事なのだ。

探偵はまた、ぽんぽんとカヨを叩いた。

「まぁな」

カヨは、とにかく探偵に依頼をしなくてはと、

頭の中を総動員して依頼を伝えようとする。

「夢を、探して欲しいんです」

「わかってる」

「え?」

「俺の勘がそういってるんだ。カヨの夢を探せってな」

「僕の名前…」

「勘はいいんだ。で、依頼するってとっていいのか?」

カヨはこくこくとうなずいた。

「お、おねがいします!」

探偵は笑った。

「任せろ。夢を探し出してやる」


探偵はそう言いきったあと、

じっとカヨの目をのぞくしぐさをした。

「えと、その…」

「ああ、誘いがあるのか…この目は参考になる」

「参考?誘い?」

カヨは尋ねるが、探偵はうなずくばかり。

「事務所で待ってな。あとで助手が茶でも出してくれるさ」

カヨが答える前に、探偵はベージュのコートを羽織って、出て行った。

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