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第450話 片恋

斜陽街二番街。

ピエロットという喫茶店がある。

やや西洋アンティークな店内に、

飾られているのはピエロのものばかり。

きらきらとオルゴールの音が流れている。

有線なのかCDなのかはわからない。


落ち着いた店内に、

通称ギター弾きは、いる。

古いギターを気ままに、心のままにかき鳴らす、

少し寂しげな男だ。

前髪で表情は汲み取れないが、

少し自嘲気味に笑う口元が見える。

何かを失ったものの笑み。

何かにあこがれ続けるものの笑み。


ギター弾きはギターを鳴らす。

寂しい心の赴くままに。


 ともすれば、

 太陽に焦がれる道化のごとく。

 永遠の片恋のごとく。


永遠の片恋。

そういうものだと、歌わせてから思う。

あこがれ続ける。

太陽にあこがれ続けるように。

美しいものを、手が届かないものを、

ずっと、ずっと、恋するように。


「アキ…」

ギター弾きはつぶやく。

彼の太陽の名前を。

オルゴールはきらきら流れる。

ピエロの置物は悲しそうに。

ピエロマスクをしている店員は静かに。


ギター弾きは、弦を一本鳴らした。

やがてそれはきれいな音の連なりになり、

激しく切なく、かきむしるような、イメージが入ってくる。

何もかもをかき消さんばかりの激情的な花。

ギター弾きは、そのイメージの中に、

鬼を見たような気がした。


鬼が、二人。

異形の鬼と、鬼の心を持った少女。

出会うべくして出会うのだろう。

それはとても狂おしい気がした。


夢のようにイメージは去り、

あとには、いつものピエロットの風景が残った。


ギター弾きはため息をつく。

「アキ…」

あれは、アキだったのだろうか。

鬼ではなかったか。

恋焦がれた少女が、

鬼にかわってしまったような、

ギター弾きはそんなことを思った。


あれは、きっと、

とてもとても純粋な片恋なのだと、

ギター弾きは思う。

夢であるならそこででも、

片恋が昇華されるよう、ギター弾きは祈った。

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