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第451話 盛衰

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


二人組みの男が、廃墟を歩いている。

なにか、水槽だったものの多い、

工場のような廃墟を、

片方は大きなカメラの機材を持って、

もう片方は、何かを考えながら身軽に歩く。


「なぁ、セン」

身軽なほうが、カメラマンにむけて呼びかける。

「何だ、トウ」

「ここ、何の廃墟だったか知りたくないか?」

「さぁな」

センと呼ばれたカメラマンは、機材を一度下ろし、

帽子を整え、また、機材を持つ。

「知りたいだろ?知りたいよな?」

「どっちでもかまわん」

「ふっふーん、知りたいだろう」

トウは廃墟の中を歩きながら、センに声をかける。

「ここはな、神様作ろうとした工場なんだとさ」

「はぁ?」

センは理解できない。

この水槽で神様を?

「ふっふーん」

トウは面白そうに、センの反応を見ている。

「で、神様はできたのか?」

「できたんなら、こんな廃墟ないと俺は思う」

「それもそうだな」

いいながら、センは無意識にカメラをセットしている。

トウは、センが構えるそこからすっと離れる。

この呼吸だけは、長年廃墟カメラマンとライターをやっていないと、

なかなかつかめないものだ。


「神様が衰えるなんて、俺はないと思うんだ」

「そうか」

「神様が栄えるなんてこともないと思うんだ」

「うん」

「生返事だな」

「まぁな」

生返事のセンは、カメラを構えている。

トウは構えているそこを見る。

 かつてこの工場には、

 神様もどきがいた。

トウは頭の中で文章を走らせる。


美しく切り取られた廃墟の写真に、

栄枯盛衰を見るならば、

神様ってのは、そんなのから外れたところにいると、

二人は思う。


廃墟は人と時間が作り上げるもの。

何を見出すかは人それぞれだけれど、

それは、美しさかもしれない。

それは、ノスタルジアかもしれない。

言葉にしにくい、この感覚を伝えたいと、

センとトウは、廃墟を今日も歩く。

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