これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
その国で、夢はどんどん裁かれる。
法律で定められた健全な夢だけが残り、
違法夢は沈黙したかに見えた。
違法夢は裏で取引されるようになった。
過激なものほどトリップして危険らしい。
そして、危険なものほど高値がついて売れる。
そんな物騒な商売をするものもあらわれる。
これは、まだ、夢の法律の想定内のことではあるらしい。
変化は徐々にあらわれる。
少しずつ、不安定になっていく。
夢を裁かれ抉られた者が、
心の形を崩していく。
それは、人が形をなくして、
心無い獣になるような現象。
一見しては歌っている者。
でも、心はなくて不安定で、
ただ孤独に滅びるのを待つ獣に成り下がる。
不安定なそれらの者を、
国が隠し通せるはずもない。
夢をなくし、心がくずれるその者を、
人は歌う獣と呼んだ。
夢鬼は歌う獣を作っているに過ぎない。
夢を裁くといいながら、滅びに向かっているだけではないのか。
人々からは疑問の声が上がる。
無意識まで健全であろうとした人々は、
心が崩れた者を見て、極端に不安になる。
いずれ、違法夢を見たらああなると。
夢がなくなるだけではない、
健全な己の精神が否定される。
人々は不安になる。
裁く鬼はいるが、人々には頼れるものがない。
鬼は、国は、
人々のためにあるのではなかったのか。
人々の疑問は、やがて新しい動きを見せる。
国に反する組織が、できようとしている。
夢を取り戻そうと、
国を転覆させようと、
違法夢を売ろうと、
いろいろな思惑が絡みあって、
国に反する組織が動き始める。
無意識まで健全を求めた国は、
不安定になった。
どこで間違ってしまったのか。
それは誰にもわからない。
歌う獣は感情を制御できないという。
不安定な情勢の国にあって、歌う獣と成り果てた者は、
不安げな歌を、今でも歌っているという。
それは、心の残骸なのかもしれない。