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第458話 魂胆

斜陽街に出没する、

螺子ドロボウという泥棒がいる。

螺子ドロボウは、調子をつかさどる螺子を盗むのを、

生業としている。

もしかしたらただの趣味かもしれない。

趣味でもどうにかなってしまう街が、

斜陽街でもある。


螺子師は、螺子ドロボウのからかい相手だ。

まじめで、仕事熱心で、

何よりも螺子を扱っている。

身体の螺子、頭の螺子、

それの調子を整えるのが、螺子師の仕事だ。

螺子ドロボウは常日頃から、

螺子師の見ている前で螺子を盗んで見せる。

当然螺子師は激昂する。

それを見て楽しむのが、螺子ドロボウの日課だ。


螺子ドロボウにも魂胆はある。

ただ楽しむだけという趣味もあるけれど、

何より、螺子に調子をつかさどってもらうのが、

螺子ドロボウとしては、あまり気持ちのいいものではない。

螺子を憎んでいるわけではない。

ただ、なまじっか身体の螺子が見えるだけに、

こんなものが、と、思ってしまう。


誰もわかってくれない。

ならば螺子が見えるもの同士、

ちょっと螺子師をからかってやろうと。

スリルを求めるのも悪くないし、

どうも螺子ドロボウは、

心根がちょっとだけ、不健全なのかもしれない。

ちょっとだけ、ひねくれている。


みんな螺子を宿している。

見えないけど、ある。

螺子ドロボウはそれが見える。

誰がこんなものを作ったのだろうか。

だとしたらその魂胆は何だ。

神様というやつか。

だとしたら神様は相当趣味悪いなと螺子ドロボウは思う。

きれいな螺子を、こんな風に隠すのがよくない。

はずしてあげようよ、よく見えるように。


螺子ドロボウは夢見る。

楽しい追いかけっこと、

くるくる回るきれいな螺子。


螺子ドロボウは人嫌いなわけではない。

人も、螺子も、多分別物だったら好きなのだ。

一緒にあるからよくないから別々にする。

きれいなその螺子を、盗む。

それが、螺子ドロボウのやり方で、

螺子師はそれがよくないと思っている。


今日も今日とて鬼ごっこ。

楽しい楽しい鬼ごっこ。

鬼さんこちら、螺子のなるほうへ。

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